📘『資本論』再学習 第80回
第1巻 第1冊「資本の生産過程」
第7篇「資本の蓄積過程」
第23章「資本主義的蓄積の一般法則」
第5節「資本主義的蓄積の一般法則の例証」
1846年から1866年のイギリス
1.今回のテーマ
第5節では、マルクスが第23章で説明してきた「資本主義的蓄積の一般法則」が、実際の
イギリス社会でどのように現れたのかを、統計資料や社会状況を使って示します。
この時期のイギリスは、産業革命が進み、工場・鉄道・貿易・機械工業が大きく発展し
ました。
一見すると、国全体が豊かになり、労働者の生活も改善したように見えます。しかし、
マルクスはその裏側にある貧困や過酷な労働に注目しました。
2.資本の急速な蓄積
1846年から1866年にかけて、イギリスでは次のような産業が拡大しました。
- 紡績・織物工業
- 石炭・鉄鋼業
- 鉄道建設
- 機械工業
- 海運・国際貿易
企業は、労働者が生み出した剰余価値を再び機械や工場に投資しました。
その結果、生産規模は拡大し、資本家の富は増加していきました。
しかし、資本の成長が、そのまま労働者の幸福につながったわけではありません。
3.富の増加と貧困の併存
この時期のイギリスでは、国富や企業利益が増えた一方で、労働者階級には次の問題
がありました。
- 低賃金
- 長時間労働
- 劣悪な工場環境
- 失業の不安
- 住宅不足
- 子どもや女性の過酷な労働
- 病気や労働災害
つまり、社会全体の富が増加しても、その富が労働者に均等に分配されたわけではあり
ません。
マルクスはここに、資本主義の大きな矛盾を見ました。
富が増えるほど、貧困も同時に生み出される。
これが「資本主義的蓄積の一般法則」の実例です。
4.労働者が豊かになったように見える場合
産業が好況になると、労働者の賃金が一時的に上昇することがあります。
しかし、マルクスは、賃金が上がったとしても問題が解決したとは考えませんでした。
なぜなら、次のような変化が起きるからです。
①労働の強度が高まる
機械の速度が上がり、労働者は以前より多くの仕事をこなさなければならなくなります。
②労働時間が延びる
企業は、より多くの剰余価値を得るため、労働時間を長くしようとします。
③生活費も上昇する
都市化が進むと、家賃や食費などが増え、賃金上昇の効果が小さくなることがあります。
④失業者が存在する
産業が発展しても、機械化によって労働者が余剰となり、失業者が生み出されます。
そのため、働いている労働者も、失業の恐怖から企業の要求に従わざるを得なくな
ります。
5.鉄道建設と労働者の犠牲
この時期、イギリスでは鉄道建設が急速に進みました。
鉄道は社会の発展に大きく貢献しましたが、その建設現場では多くの労働者が非常に
厳しい条件で働きました。
- 不安定な雇用
- 危険な作業
- 低い賃金
- 遠隔地での長時間労働
- 労働災害
- 失業後の生活困難
鉄道や工場などの巨大な設備は、資本家にとっては利益を生む資産です。
一方、労働者にとっては、自分の労働力を売らなければ生活できない場所でもあり
ました。
6.産業予備軍の役割
マルクスは、失業者や半失業者を「産業予備軍」と呼びました。
産業予備軍は、企業にとって次のような役割を持ちます。
- 好況時には労働力をすぐ補充できる
- 不況時には大量に解雇できる
- 働いている労働者の賃金要求を抑えられる
- 労働者同士を競争させられる
つまり、失業者の存在は、資本主義にとって偶然の失敗ではなく、企業が労働力を安
く利用するための仕組みと結びついているのです。
7.アイルランドの事例
マルクスは、イギリスだけでなくアイルランドの状況にも注目しました。
アイルランドでは、農業や土地所有の問題によって、多くの人々が貧困に苦しんでい
ました。
土地を追われた農民がイギリスへ移住すると、都市部では低賃金労働者が増えます。
これはイギリスの労働者にも影響を与えました。
労働力の供給が増えることで、企業はより低い賃金で労働者を雇いやすくなったからです。
このように、資本主義は一国だけでなく、国際的な労働者の移動を通じても、労働者間
の競争を強めました。
8.資本主義の基本的な矛盾
第5節で示される重要な矛盾は、次の通りです。
| 資本主義の発展 | 労働者側に起きること |
|---|---|
| 工場が増える | 労働者の長時間労働 |
| 機械が進歩する | 労働者の失業・仕事の単純化 |
| 生産量が増える | 商品を買えない貧困層の増加 |
| 資本家の利益が増える | 富の格差が拡大 |
| 産業が発展する | 産業予備軍が形成される |
社会の生産力は高まっているのに、多くの人々の生活は不安定なままです。
ここに、資本主義的生産の根本的な矛盾があります。
9.今回のまとめ
1846年から1866年のイギリスでは、産業と資本が急速に成長しました。
しかし、その発展は次のような犠牲を伴っていました。
- 資本家の富の増大
- 労働者の長時間・過酷労働
- 失業者の増加
- 労働者同士の競争
- 貧富の格差
- 生活の不安定化
マルクスが示したのは、単なる「貧しい人がいる」という事実ではありません。
資本が蓄積される仕組みそのものが、労働者の貧困や失業を生み出すということです。
✅今回の重要ポイント
- 1846~1866年、イギリス資本主義は急速に発展した
- 国富が増えても、労働者全体が豊かになったわけではない
- 機械化・長時間労働・低賃金が広がった
- 失業者は「産業予備軍」として存在した
- 資本の蓄積と労働者の貧困が同時に進んだ
- これが資本主義的蓄積の一般法則の実例である
一言でいうと
産業が発展し資本家が富を増やすほど、その裏側で労働者の不安定な生活と貧困も再生産された。



