📘『資本論』再学習 第79回
第1巻 第1冊「資本の生産過程」
第7篇「資本の蓄積過程」
第23章「資本主義的蓄積の一般法則」
第4節「相対的過剰人口の種々の存在形態」
1.今回のテーマ
第4節では、資本主義の発展によって生み出される「相対的過剰人口」、つまり資本にとって余剰
となる労働者が、どのような形で存在するのかを説明しています。
相対的過剰人口とは、社会全体に仕事がまったくない人だけを指すのではありません。
企業が必要とする労働者数に比べて、働きたい労働者の数が多すぎる状態を意味します。
そのため、仕事があっても、
失業している
一時的な仕事しかない
低賃金で不安定な仕事に就いている
仕事を探すことをあきらめている
といった人々も、広い意味で相対的過剰人口に含まれます。
2.相対的過剰人口が生まれる理由
資本家は、利益を増やすために生産方法を改善します。
たとえば、
機械を導入する
工場を大型化する
コンピューターやAIを利用する
作業を分業化する
少ない労働者で大量生産する
といった方法です。
この結果、生産量は増えますが、労働者の必要数が必ず増えるとは限りません。
つまり、資本の蓄積が進むほど、労働者の一部が「資本から必要とされない存在」になる場合が
あります。
マルクスは、この現象を次のように捉えました。
資本の蓄積は、一方で富を増やし、他方で労働者の余剰を生み出す。
これが「資本主義的蓄積の一般法則」です。
3.相対的過剰人口の4つの形態
マルクスは、相対的過剰人口を主に次の形態に分けています。
① 流動的過剰人口
工場や企業の中で、労働者が採用されたり、解雇されたりすることによって生じる過剰人口
です。
景気が良いときには労働者を多く雇います。
しかし、機械化や生産縮小が進むと、労働者が解雇されます。
このように、労働者が企業間を移動しながら、雇用と失業を繰り返す状態が流動的過剰人口です。
現代の例
工場の期間工
派遣労働者
契約社員
景気に左右される業種の労働者
店舗閉鎖によって転職を迫られる人
流動的過剰人口は、企業にとって都合のよい労働力でもあります。
必要なときだけ雇い、必要がなくなれば減らすことができるからです。
② 潜在的過剰人口
農村などに存在し、表面的には仕事をしているものの、実際には十分な収入を得られず、都市
や工場へ移動する可能性がある人々です。
農業の機械化や大規模経営が進むと、農村では多くの労働者が必要なくなります。
しかし、家族経営の農業では、家族全員が働いていても、一人あたりの収入が非常に少ない場合
があります。
このような人々は、完全な失業者ではありません。
けれども、生活を維持できないため、都市へ出て賃金労働者になる可能性を持っています。
現代の例
収入の少ない家族農業
地方の後継者不足
農業とアルバイトを掛け持ちする人
地方から都市へ移住する若者
仕事が少ない地域の非正規労働者
③ 停滞的過剰人口
停滞的過剰人口とは、非常に不安定な仕事に就きながら、低賃金で生活している人々です。
完全な失業者ではありませんが、安定した雇用から排除されている人々です。
マルクスは、これを資本主義的生産の中で重要な労働者層として捉えました。
なぜなら、停滞的過剰人口は、低賃金でも働かざるを得ないため、企業にとって安価な労働力
になるからです。
現代の例
日雇い労働者
短時間パート
不安定なアルバイト
ギグワーカー
低賃金の派遣労働者
複数の仕事を掛け持ちする人
生活が不安定であるほど、労働者は低い条件でも仕事を受け入れざるを得ません。
その結果、社会全体の賃金水準にも下向きの圧力がかかります。
④ 貧困層・救貧院に依存する人々
相対的過剰人口の最下層には、働くことができない、または働く機会を失った人々がいます。
マルクスは、次のような人々を挙げています。
高齢者
病人
障害者
労働災害を受けた人
長期失業者
生活に困窮した人
仕事を探すことをあきらめた人
資本主義は、働けるときには労働者を利用します。
しかし、病気や高齢によって働けなくなると、労働者を十分に支えない場合があります。
そのため、資本主義の発展とともに、豊かな社会の中に貧困が存在するという矛盾が生まれます。
4.「産業予備軍」とは何か
相対的過剰人口は、マルクスによって「産業予備軍」とも呼ばれます。
これは、企業が必要としたときに、すぐに労働市場へ投入できる労働者の集団です。
景気が上向けば企業は労働者を雇います。
景気が悪化すれば解雇します。
このように、失業者や不安定労働者が存在することで、企業は必要なときに労働力を確保で
きます。
一方、労働者側から見ると、常に次のような不安を抱えることになります。
いつ解雇されるか分からない
賃金を下げられるかもしれない
長時間労働を断りにくい
条件の悪い仕事でも受けざるを得ない
したがって、産業予備軍は企業にとって便利な存在ですが、労働者にとっては生活不安の原因
になります。
5.資本主義的蓄積の一般法則
第23章の中心的な主張は、次のようにまとめられます。
資本が蓄積され、富が増大するほど、資本から排除される労働者も生み出される。
資本主義では、資本家は利益を再投資して、さらに大きな資本を形成します。
しかし、その投資先は労働力だけではありません。
機械、建物、原材料、情報システムなどにも多くの資本が向けられます。
そのため、生産規模が拡大しても、労働者の数が同じ割合で増えるとは限りません。
むしろ、機械化によって労働者の必要数が減る場合があります。
富の蓄積と貧困の蓄積
マルクスが指摘した重要な矛盾は、次の関係です。
つまり、社会全体の生産力が向上しても、その成果がすべての人に均等に分配されるとは限りません。
富が増える一方で、貧困や失業も同時に生まれることがあります。
マルクスは、この状態を「富の蓄積が、同時に貧困の蓄積でもある」と考えました。
6.現代社会との関係
第4節の内容は、現代でも考えることができます。
たとえば、デジタル化やAIの発達によって、企業は少ない人数で多くの仕事を処理できるよう
になっています。
その一方で、
正社員の削減
非正規雇用の増加
低賃金労働
長期失業
高齢者の生活困窮
若者の不安定就労
などの問題が起きています。
もちろん、現代社会には社会保障や労働法があるため、マルクスの時代とまったく同じではあ
りません。
しかし、
「生産力が発展しているのに、働く人の生活が安定しない」
という問題は、現在にも残されています。
7.今回のまとめ
第4節の要点は次のとおりです。
相対的過剰人口とは、資本にとって余剰となる労働者である
それは完全な失業者だけではない
流動的・潜在的・停滞的な形で存在する
最下層には病人、高齢者、長期失業者、困窮者が含まれる
産業予備軍は、企業が必要なときに利用する労働力である
資本の蓄積は、富の増大と同時に貧困や不安定雇用を生み出す
これが「資本主義的蓄積の一般法則」である
一言でいうと
資本主義は、社会の富を増やす力を持つ一方で、その富を生み出す労働者を、必要なときだ
け利用できる余剰労働力として生み出す仕組みでもある。

0 件のコメント:
コメントを投稿