『資本論』第1巻 第4篇「相対的剰余価値の生産」第12章「分業と工場手工業」第3節
**「工場手工業の二つの基本形態――異種的工場手工業と有機的工場手工業」**について、学習用に整理して解説します。
全体の位置づけ
資本論 第1巻第12章では、資本主義的生産の初期段階としての「工場手工業(マニュファクチュア)」が分析されます。
この段階の核心は、**機械ではなく「人間労働の分業」**によって生産性を高め、相対的剰余価値を生み出す点にあります。
第3節では、工場手工業を構成する二つの基本形態が区別されます。
工場手工業とは何か(前提)
工場手工業とは、
多数の労働者が
一つの資本のもとに集められ
分業によって協働する生産形態
です。
👉 重要なのは
道具は基本的に手工業的
生産の主役は依然として労働者の熟練
である点です。
① 異種的工場手工業(いしゅてき)
概要
異なる種類の独立した手工業を、
一つの資本のもとに並列的に結合した形態。
特徴
もともと別々に存在していた職人仕事が集合
各工程は比較的独立
工程間の結合は外的・機械的
例
時計製造
ケース職人
文字盤職人
針職人
組立職人
それぞれの仕事は単独でも成立する
本質
分業はあるが
有機的な一体性は弱い
資本による「寄せ集め的統合」
👉 マルクスはこれを
「異なる諸手工業の集合体」
として捉えます。
② 有機的工場手工業(ゆうきてき)
概要
一つの製品を作る連続工程が、
内部的・必然的に分業化された形態。
特徴
製品は最初から最後まで一連の工程
各労働は前後の工程に依存
工程の分離は生産物の性質から必然的
例
針製造(マルクスの有名な例)
針金を引き延ばす
切断
尖らせる
穴を開ける
研磨
各工程は単独では意味を持たない
本質
分業が生産過程の内部構造になっている
労働者は部分労働者に転化
生産全体は一つの有機体
👉 ここでは資本の支配がより深く貫徹されます。
両者の比較(要点)
理論的に重要な点
① 相対的剰余価値との関係
分業により
熟練の単純化
作業時間の短縮
労働強度の上昇
⇒ 必要労働時間の短縮
⇒ 相対的剰余価値の増大
② 労働者の変質
労働者は
全体的職人 → 部分的機能の担い手
知識・技能は
労働者 → 生産過程(=資本)側へ
③ 機械制への橋渡し
有機的工場手工業は
工程の定式化
動作の分解
を通じて
👉 機械化(第13章以降)への準備段階となる。
まとめ(学習用整理)
工場手工業は「分業」による相対的剰余価値生産の形態
その内部には
異種的工場手工業(寄せ集め型)
有機的工場手工業(工程内在型)
という二形態がある特に後者は
労働者の部分化
資本の支配の深化
機械制への移行
を理解する鍵となる
※訳文は版によって細部が異なるため、学習用の標準的表現として理解してください。
1️⃣ 工場手工業そのものの定義(前提)
「工場手工業とは、同一の資本の指揮のもとで、多数の労働者が、それぞれ異なる、しかし相互に補完しあう部分労働を行うことによって、同一の使用価値を生産することである。」
解説
工場手工業の本質は
👉 分業+資本の指揮協業ではあるが、機械ではなく人間労働の分割が核心。
2️⃣ 異種的工場手工業の規定
「異種的工場手工業は、もともと互いに独立して存在していた諸手工業が、一つの資本のもとに集合されることによって成立する。」
解説
出発点は独立した職人仕事
分業は
生産物の内部から生じたものではなく
外から結合されたもの
「ここでは、それぞれの部分作業は、なおそれ自体として一つの完成した手工業でありうる。」
解説
各工程は
👉 単独でも成立可能したがって分業の結合は
👉 外的・機械的
3️⃣ 有機的工場手工業の規定(最重要)
「有機的工場手工業は、一つの同一の使用価値の生産が、最初から最後まで連続した諸段階に分解され、それぞれが独立した部分労働として遂行されるところから生じる。」
解説
分業は
👉 生産物の性質そのものから必然的に発生工程は互いに内的に結合
「ここでは、部分労働はもはやそれ自体として完成した労働ではなく、全体労働の一契機にすぎない。」
解説
労働者は
👉 部分労働者(Teilarbeiter)全体を見渡す力を失う
4️⃣ 針製造の有名な例
「一人の労働者が針を作ろうとすれば、彼は針金を引き延ばし、切断し、尖らせ、穴をあけ、研磨しなければならない。しかし、これらの諸作業を分離すれば、同じ時間に比較にならぬほど多くの針が生産される。」
解説
分業による
生産性の飛躍的上昇
相対的剰余価値の典型例
5️⃣ 労働者の一面的化・知的貧困化
「工場手工業は、労働者を、その一生を通じて同一の単純な操作に縛りつけることによって、彼を一面的に完成させると同時に、全体的には彼を不具にする。」
解説
技能の「完成」=局所的
人間としては
👉 全体的能力の縮減
6️⃣ 知識の資本への移転(非常に重要)
「工場手工業においては、生産過程の知的諸力は、労働者から切り離され、資本の力として対立する。」
解説
ここで
👉 労働の知識が資本に吸収後の「機械制」に直結する核心命題
7️⃣ 機械制への移行を示す一文
「工場手工業は、労働過程をその主観的形態から客観的形態へと転化させることによって、大工業の物質的前提をつくりだす。」
解説
主観的形態=人間の熟練
客観的形態=工程・装置・機械
👉 第13章への理論的橋
まとめ(原文理解の核心)
異種的工場手工業
👉 「寄せ集め」「外的結合」有機的工場手工業
👉 「工程内在」「部分労働者」「資本の支配の深化」最重要命題
👉 生産過程の知的力が資本の側に移行する
0️⃣ 訳者の立場の違い(前提)
宇野弘蔵
理論経済学としての『資本論』
概念規定・論理構造を最重視
大内兵衛
社会思想・労働問題としての『資本論』
歴史性・社会的ニュアンスを重視
👉 この立場の違いが、訳語・文体に反映されます。
1️⃣ 「工場手工業(マニュファクチュア)」の捉え方
原語
Manufaktur
宇野訳
「工場手工業」
大内訳
「工場制手工業」
差異の意味
宇野:
「工場」という資本の統一空間を強調
大内:
「制」を補い、制度的・社会的形態を強調
👉
宇野訳 → 生産様式の論理構造が前面
大内訳 → 歴史的制度としての段階性が前面
2️⃣ 異種的工場手工業の定義文
宇野訳(傾向)
「異種的工場手工業は、もともと独立して存在していた諸手工業が、一資本のもとに集合されることによって成立する。」
大内訳(傾向)
「異種的工場制手工業は、従来ばらばらに行われていた諸職業が、資本によって一工場内に集中されることから生じる。」
ニュアンス差
宇野:
「独立」「集合」→ 抽象度が高い
大内:
「ばらばら」「集中」→ 具体的・歴史描写的
👉 大内訳は、労働者が集められていく現場像が浮かびやすい。
3️⃣ 有機的工場手工業の核心文(最重要)
原文の趣旨
生産物そのものが工程分解を要求する
分業は内在的
宇野訳
「有機的工場手工業は、一つの同一の使用価値の生産が、最初から連続した諸段階に分解されるところから生ずる。」
大内訳
「有機的工場制手工業では、同一の使用価値の生産が、その性質上、最初から終わりまで一連の工程として分割される。」
差異の意味
宇野:
「使用価値」「分解」
👉 価値論的・論理的把握大内:
「その性質上」「終わりまで」
👉 生産過程の具体性
4️⃣ 「部分労働者(Teilarbeiter)」の訳し方
宇野訳
「部分労働者」
大内訳
「部分労働者(部分的労働者)」
差異の意味
宇野:
概念として確定(理論用語)
大内:
読者理解を助けるための補足
👉 宇野訳は学術的に硬いが、概念がブレない。
5️⃣ 労働者の「不具化」の表現
宇野訳
「工場手工業は、労働者を一面的に完成させるとともに、全体としてはこれを不具にする。」
大内訳
「工場制手工業は、ある特殊技能において労働者を完成させるが、人間としては彼を不具なものにしてしまう。」
ニュアンス差
宇野:
冷静・構造分析的
大内:
倫理的・人間的痛みが強調
6️⃣ 「生産過程の知的諸力」の帰属
宇野訳
「生産過程の知的諸力は、労働者から切り離されて、資本の力として現れる。」
大内訳
「生産過程に含まれる知的な力は、労働者の手を離れ、資本そのものの力として労働者に対立する。」
理解への影響
宇野:
概念の転位(帰属変化)を重視
大内:
階級的対立の対峙関係が明確
7️⃣ 総合評価(学習上の使い分け)
結論(第12章第3節を読むなら)
理論的精密さを重視 → 宇野訳
労働の現実感・歴史像を掴む → 大内訳
最善は
👉 大内訳で全体像 → 宇野訳で概念確認
全体像(マルクスの構成意図)
資本論 第1巻では、生産力の発展が
単なる技術史ではなく、資本による労働支配の深化過程として描かれます。
協業 → 分業 → 機械制
=
人の集積 → 人の分解 → 人から機械への移行
① 協業(Cooperation)
定義
多数の労働者が、同一の作業を
同時に・同一資本のもとで行う生産形態
特徴
労働内容:同質
技術:従来の手工業のまま
変化点:量的集積
本質
生産力の増大は
👉 労働者数の結合効果労働者は
👉 まだ全体的職人
支配の形態
資本の力 = 統率・指揮
技能や知識は
👉 労働者側に残存
② 分業(工場手工業/Manufaktur)
定義
生産過程を部分作業に分割し、
各労働者が特定工程だけを担当する形態
特徴
労働内容:異質化
技術:手工業的道具
変化点:質的分解
本質
労働者 → 部分労働者
生産過程 → 有機的全体
熟練は
👉 工程へと客観化
支配の形態
資本は
👉 生産過程そのものを設計知的諸力が
👉 資本側へ移行
③ 機械制(大工業/Maschinerie)
定義
機械体系が労働過程の主体となり、
労働者はその付属物として機能する形態
特徴
労働内容:監視・補助
技術:機械体系・動力
変化点:主体の転倒
本質
生産力の担い手
👉 労働者 → 機械労働者の熟練
👉 不要化・一般化
支配の形態
資本の支配は
👉 物的形態(機械)として可視化労働者は
👉 完全に従属
三段階の比較表(核心)
理論的核心(最重要ポイント)
① 支配の深化
協業:人を集める
分業:人を分ける
機械制:人を不要化する方向
👉 支配は
外的 → 内的 → 物的へ
② 知的力の移動
協業:労働者の頭脳に存在
分業:工程設計として資本へ
機械制:機械そのものに固定
👉
「生産過程の知的諸力が資本の力として労働者に対立する」
という命題は、この三段階全体を貫く。
③ 分業の歴史的役割
分業(工場手工業)は
👉 中間段階しかし
👉 機械制の物質的・理論的準備を完成させる
学習上の整理(覚え方)
協業:
「一緒にやる」分業:
「バラしてやる」機械制:
「人がやらなくなる」
次に読むと理解が深まる箇所
第11章「協業」
第12章「分業と工場手工業」
第13章「機械と大工業」