📘『資本論』再学習 第77回
第1巻 第1冊「資本の生産過程」
第7篇「資本の蓄積過程」
第23章「資本主義的蓄積の一般法則」
第2節「蓄積とそれに伴う集積の進行中における可変資本部分の相対的減少」
※ご質問の「資本主義的生産の一般法則」は、一般的には**「資本主義的蓄積の一般法則」**と表記されます。また「集積都」は「集積」です。
✅今回の重要ポイント
- 資本の蓄積が進むと、生産規模は拡大する
- 企業は利益の一部を機械・設備・原材料に再投資する
- その結果、資本全体に占める労働力への支出が相対的に減少する
- 生産量が増えても、労働者数が同じ割合で増えるとは限らない
- 機械化によって、労働者の一部が余剰化する
- その余剰労働力が「産業予備軍」や「相対的過剰人口」になる
①「可変資本」とは何か
資本を大きく2つに分けます。
| 区分 | 内容 | 価値の変化 |
|---|---|---|
| 不変資本(c) | 機械・工場・原材料など | 新しい価値を自ら増やさない |
| 可変資本(v) | 労働者の賃金に使われる資本 | 労働によって価値を増やす |
労働者は、賃金以上の価値を生み出します。
たとえば、労働者に1日1万円の賃金を支払い、1日2万円分の商品価値を生み出したとします。
賃金 1万円 → 労働者の生活費 生み出した価値 2万円 差額 1万円 → 剰余価値
このように、労働力に投じられた資本は価値を増やすため、マルクスは「可変資本」と呼びました。
②蓄積によって資本は大きくなる
資本家は、商品を販売して得た剰余価値のすべてを個人的な消費には使いません。
一部を追加資本に変え、生産を拡大します。
剰余価値 ↓ 一部を消費 一部を再投資 ↓ 機械・工場・原材料の増加 労働力の追加 ↓ 生産規模の拡大
これが資本の蓄積です。
しかし、追加された資本がすべて労働者の賃金に向かうわけではありません。
③資本の「集積」とは何か
ここでいう集積とは、個々の資本が剰余価値を蓄積することで、資本の規模が大きくなることです。
たとえば、資本家が100万円の資本で事業を始め、利益の一部を再投資して、資本を500万円、さらに1,000万円へ増やしていく場合です。
個別資本の蓄積 ↓ 資本規模の拡大 ↓ 機械・設備・原材料の増加 ↓ 生産力の向上
つまり集積は、資本家が自分の得た利益を使って資本を大きくする過程です。
④なぜ可変資本の割合が減少するのか
資本が蓄積されると、資本家は競争に勝つために機械化・合理化を進めます。
最初は次のような資本だったとします。
| 資本の構成 | 金額 |
|---|---|
| 機械・原材料など(不変資本) | 60万円 |
| 賃金に使う資本(可変資本) | 40万円 |
| 資本総額 | 100万円 |
この場合、可変資本の割合は40%です。
ところが、機械化が進むと次のようになります。
| 資本の構成 | 金額 |
|---|---|
| 機械・原材料など(不変資本) | 800万円 |
| 賃金に使う資本(可変資本) | 200万円 |
| 資本総額 | 1,000万円 |
可変資本は40万円から200万円に増えています。
しかし、資本総額に占める割合は、
40万円 ÷ 100万円 = 40% 200万円 ÷ 1,000万円 = 20%
となり、労働力への支出は増えていても、その割合は低下しています。
これが「可変資本部分の相対的減少」です。
⑤「労働者が減る」とはどういう意味か
ここで注意が必要です。
マルクスが述べているのは、必ず労働者の人数が絶対的に減少するという意味ではありません。
重要なのは、
資本の増加に比べて、労働者数の増加が少なくなる
ということです。
たとえば、資本が2倍になっても、労働者数が2倍になるとは限りません。
資本総額 2倍 機械・設備 3倍 生産量 3倍 労働者数 1.2倍
このように、機械や設備の増加が労働者数の増加を上回ります。
そのため、資本全体に占める可変資本の割合が小さくなります。
⑥資本の有機的構成
この関係を表す言葉が、資本の有機的構成です。
資本の有機的構成 = 不変資本(c) : 可変資本(v)
機械や設備への投資が増え、労働力への投資の割合が減ると、資本の有機的構成は高度化します。
以前:c 60 : v 40 現在:c 80 : v 20
これは、資本家が労働者を意図的に苦しめたいからだけではありません。
資本主義では企業同士が競争しているため、より安く、より速く商品を生産する必要があります。
その結果、
競争 ↓ 機械化・合理化 ↓ 不変資本の増加 ↓ 可変資本の相対的減少 ↓ 労働者の一部が余剰化
という流れが生じます。
⑦相対的過剰人口と産業予備軍
機械化によって、現在の生産に必要な労働者数が減ると、仕事を失う人や、安定した仕事に就けない人が生まれます。
これをマルクスは相対的過剰人口と呼びます。
「人口が多すぎる」という意味ではありません。
社会全体にとって人間が多すぎるのではなく、
資本の運動にとって、現在必要とされる労働者が相対的に多すぎる
という意味です。
この人々は、企業にとっていつでも雇うことのできる労働力となります。
そのため、マルクスは産業予備軍とも呼びました。
機械化・合理化 ↓ 必要労働者の減少 ↓ 失業者・不安定労働者の増加 ↓ 産業予備軍の形成 ↓ 賃金を抑える力として作用
🔗個別資本から社会全体への論理
この節の論理は、次のように整理できます。
個別資本の競争 ↓ 剰余価値を再投資 ↓ 機械・設備の増加 ↓ 不変資本の比重が上昇 ↓ 可変資本の相対的減少 ↓ 労働者の一部が余剰化 ↓ 相対的過剰人口・産業予備軍 ↓ 賃金・雇用条件への圧力
❌よくある誤解
誤解1:資本が増えれば、全労働者が豊かになる
生産力が上がっても、利益の分配が労働者に平等に行われるとは限りません。
資本家は、利益をさらに機械や設備に投資するため、労働者の生活が自動的に安定するわけではありません。
誤解2:機械が増えれば、労働者は完全に不要になる
機械を動かし、製品を設計し、管理し、修理する労働者は必要です。
ただし、必要とされる労働者の種類や人数が変化します。
誤解3:失業は個人の努力不足だけが原因である
マルクスは、失業や不安定雇用を個人の能力だけで説明しません。
資本の蓄積と技術革新が、労働力の需要を変化させる社会的な仕組みに注目しています。
🌐現代とのつながり
現在でも、次のような現象にこの議論を見ることができます。
- 工場の自動化・ロボット化
- コンビニや銀行のセルフレジ
- AIによる事務作業の効率化
- 配送・倉庫の無人化
- 非正規雇用や短時間労働の増加
- 企業利益の設備投資への集中
技術は生産力を高め、人間の重労働を減らす可能性があります。
しかし、その利益が社会全体に分配されなければ、
企業の生産力向上 ↓ 利益の増加 ↓ 一部の労働者は高技能化 一部の労働者は仕事を失う ↓ 雇用・賃金格差の拡大
という結果にもなります。
📝この節の核心
この節でマルクスが明らかにしたのは、次の点です。
資本の蓄積は、単に資本の量を増やすだけではない。機械や設備への投資を増やし、資本全体に占める労働力への支出を相対的に減少させる。その結果、労働者の一部が相対的過剰人口として形成される。
✅第77回のまとめ
- 資本は剰余価値を再投資して拡大する
- 再投資は機械・設備に多く向けられる
- 不変資本の割合が上昇する
- 可変資本の割合が相対的に低下する
- 生産量が増えても、雇用が同じ割合で増えるとは限らない
- 労働者の一部が相対的過剰人口になる
- 産業予備軍が賃金や雇用条件に圧力を加える
一文でまとめると
資本の蓄積は生産力を発展させる一方で、資本に必要とされる労働者の割合を相対的に減らし、失業や不安定雇用を生み出す仕組みを持っている。

