『資本論』第2巻・第2篇「資本の回転」第10章「固定資本と
流動資本にかんする諸理論」
において、重農学者とアダム・スミスがどのように扱われ、**資本論の
著者カール・マルクス**が何を批判・継承しているのかを整理して解説します。
第10章の位置づけ(要点)
この章は、固定資本と流動資本の区別がどのように形成され、どこに理論
的混乱が生じたかを、先行理論(重農学派、スミス)への批判的検討を通じて明
らかにします。焦点は
資本の使用寿命・回転様式(長期にわたって機能するか/一度で価値移転するか)
価値移転の仕方(部分的・段階的か/一挙か)
です。
1.重農学者(重農学派)の理論
重農学派(中心人物:フランソワ・ケネー)は、18世紀フランスで成立し、農業のみが「純生産物(剰余)」を生むと考えました。
固定資本・流動資本の理解
固定資本:農具・家畜・農業施設など、複数年にわたり生産に奉仕する手段。
流動資本:種子・賃金・肥料など、1回の生産過程で消費される投入。
マルクスの評価と批判
評価:
生産過程を社会的・循環的に捉え、資本の再生産・回転という視点を先駆的
に提示(『経済表』)。
批判:
剰余を農業に限定し、工業・商業を「不生産」とした点は歴史的制約。
固定/流動の区別が、価値移転の一般理論としては未成熟。
要するに、区別の萌芽はあるが、一般化に失敗している、とマルクスは見ます。
2.アダム・スミスの理論
**アダム・スミス**は『国富論』で固定資本・流動資本を体系的に論じ、後世に大きな影響を与えました。
固定資本・流動資本の定義(スミス)
固定資本:
機械・建物・改良された土地・熟練(人的資本)など、所有者のもとに留まりながら利潤を生むもの。
流動資本:
原材料・賃金・在庫商品・貨幣など、流通を通じて姿を変えながら利潤を生むもの。
マルクスの批判(核心)
生産過程と流通過程の混同:
スミスは「市場で移動するかどうか」を基準にし、価値がどのように生産物へ移転するかという核心を曖昧にした。
人的能力を固定資本に含める問題:
労働力(労働者の能力)と資本の物的形態を混同。理論的不整合:
固定/流動の区別が、回転時間・価値移転という分析軸に一貫して結びついていない。
マルクスにとって、スミスは区別を広めた功績はあるが、分析基準が不明確で理論を
混乱させた存在です。
3.マルクス自身の整理(結論)
マルクスは先行理論を踏まえ、次の基準で明確化します。
固定資本:
生産手段のうち、長期間使用され、価値が部分的・段階的に生産物へ移転するもの(機械・建物など)。
流動資本:
1回の生産過程で全価値を生産物に移転するもの(原材料・補助材料・労働力に支出される可変資本部分)。
→ 決定的基準は、「流通するか否か」ではなく「価値移転と回転の様式」。
まとめ(比較表的要点)
重農学派:区別の萌芽/農業中心で一般化不足
アダム・スミス:区別を普及/基準混乱(流通基準・人的資本の扱い)
マルクス:回転時間と価値移転に基づく科学的定式化
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