📘『資本論』再学習 第82回
第1巻 第1冊「資本の生産過程」
第7篇「資本の蓄積過程」
第23章「資本主義的蓄積の一般法則」
第5節「資本主義的蓄積の一般法則の例証」
c 移動民
1.「移動民」とは何か
ここでいう「移動民」は、民族や文化としての遊牧民ではありません。
19世紀イギリスで、鉄道建設、鉱山、運河、道路建設などを求めて、仕事のある場所から場所へ
移動させられた労働者たちを指しています。
彼らは農村出身者が多かったものの、実際には工業的な仕事に従事していました。マルクスは、
こうした人々を「資本の必要に応じて移動させられる労働者」として描いています。
2.資本にとっての「便利な労働力」
鉄道や鉱山などの大規模事業では、短期間に大量の労働力が必要になります。
しかし、工事が終われば、その地域での仕事はなくなります。
そのため労働者は、
鉄道建設の現場
鉱山
運河工事
道路建設
大規模な土木工事
などを次々に移動しなければなりませんでした。
資本家にとって彼らは、必要な場所へすぐに投入できる「機動的な労働力」でした。
つまり、労働者は一つの地域に根を張った生活者ではなく、資本の都合によって配置される存
在になったのです。
3.「産業の軽歩兵」としての労働者
マルクスは、移動民的な労働者を、資本の「軽歩兵」にたとえています。
これは、彼らが資本の命令に従って、必要な場所へ送り込まれるという意味です。
戦争で軽歩兵が最前線へ動員されるように、資本は労働者を次の現場へ移動させます。
しかし、労働者本人にとっては、移動は自由な選択とは限りません。
仕事を失わないために、
家族と離れる
劣悪な宿舎で暮らす
慣れない土地へ移る
工事終了後に再び移動する
という生活を強いられました。
4.粗末な住宅と二重の搾取
鉄道会社や請負業者は、労働者のために簡易な小屋や宿舎を用意しました。
しかし、それらは衛生設備が不十分で、自治体の監督も届きにくい場所に建てられていました。
労働者はそこで、
労働力を提供して賃金を得る
会社や請負業者が用意した住宅に住み、住居費を支払う
という二重の関係に置かれました。
つまり、請負業者は労働者を「労働者」として搾取するだけでなく、「借家人」としても利益を得
たのです。原文でも、請負業者が労働者を労働力として、同時に借家人として利用したことが指
摘されています。
5.地主も利益を得た
鉱山地域では、地主も移動労働者から利益を得ました。
地主は土地を所有しているため、労働者が住む土地や住宅に対して高い地代を要求できます。
この場合、利益を得る者は一人ではありません。
資本家・請負業者:労働によって利益を得る
地主:土地や住宅の使用料によって利益を得る
労働者:低賃金と高い住居費に苦しむ
労働者が生み出した価値が、資本家と地主の双方に吸い上げられる構造です。
6.移動民の生活が示すもの
「移動民」の例は、資本主義的蓄積の一般法則を具体的に示しています。
資本が成長しても、労働者の生活が安定するとは限りません。
むしろ、
仕事はあるが、長期的な雇用ではない
賃金を得ても、住居費で消えてしまう
仕事のために頻繁な移動を強いられる
労働者が地域社会から切り離される
企業の都合で生活全体が左右される
という状況が生まれます。
マルクスが問題にしたのは、単なる貧困だけではありません。
労働者が「生活者」ではなく、資本の移動に合わせて運ばれる労働力へと変えられることでした。
7.現代とのつながり
現代にも、似た構造を見ることができます。
たとえば、
建設現場を転々とする下請け労働者
住み込みで働く季節労働者
工場を移動する派遣労働者
遠隔地の宿舎で暮らす外国人労働者
会社寮や家賃補助に依存する低賃金労働者
などです。
もちろん19世紀イギリスと現代日本は同じではありません。しかし、「資本の必要に応じて労働
者が移動し、住居や生活まで企業に依存する」という点では、共通する問題があります。
✅今回の重要ポイント
「移動民」は、仕事を求めて各地を移動する労働者層である
鉄道・鉱山・土木工事などで大量に利用された
労働者は資本の都合に合わせて配置された
粗末な宿舎や高い地代によって、住居面でも搾取された
資本家だけでなく地主も労働者から利益を得た
資本の発展が、労働者の生活安定を意味するとは限らない
まとめ
第23章第5節「c 移動民」でマルクスが描いたのは、資本主義の発展によって生まれた、移動を
強制される労働者の姿です。
資本は利益を求めて移動します。そして、その資本に合わせて労働者も移動させられます。
ここには、資本が自由に動く一方で、労働者は生活のためにその動きへ従わざるを得ないという
、資本主義の力関係が表れています。

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