📘『資本論』再学習 第83回
第1巻 第1冊「資本の生産過程」
第7篇「資本の蓄積過程」
第23章「資本主義的蓄積の一般法則」
第5節「資本主義的蓄積の一般法則の例解」
d 恐慌が労働者階級の最高給部分に及ぼす影響
1.「最高給部分」とは何か
ここでいう「最高給部分」とは、労働者階級の中でも、比較的高い賃金を得ていた熟練
労働者や技能労働者です。
たとえば、当時のイギリスでは、
- 熟練した機械工
- 建設関係の職人
- 鉄道・造船などの技能労働者
- 高い技術を持つ職人
などが含まれます。
彼らは低賃金労働者よりも生活に余裕があり、労働者階級の中では「恵まれた層」と見
られていました。
2.恐慌になると、彼らも簡単に失業する
マルクスが示した重要な点は、恐慌になると、高賃金の熟練労働者でさえ生活の安定を
失うということです。
景気がよいときには、資本家は熟練労働者を必要とします。しかし、恐慌が起こると、
- 商品が売れなくなる
- 工場や事業所が操業を縮小する
- 設備投資が止まる
- 熟練労働者も解雇される
- 賃金が下がり、貯金も失われる
という流れが起こります。
つまり、技能が高いからといって、資本主義の恐慌から完全に守られるわけではありません。
3.熟練労働者の技能も、資本の所有物のように扱われる
熟練労働者は、長い年月をかけて技術を身につけています。
しかし資本家は、労働者の技能を人格的な財産として尊重するのではなく、生産に必要な「労働力」として利用します。
景気がよいときは、
「あなたの技能が必要だ」
と評価されます。
しかし恐慌になると、
「仕事がないから、もう必要ない」
と切り捨てられます。
マルクスは、熟練労働者が資本にとって重要な存在でありながら、恐慌が近づくと、
その生活が非常に不安定になることを指摘しました。
4.高賃金は「安定」ではなく、一時的な状態にすぎない
高賃金労働者は、一般の労働者より多くの収入を得ています。
しかし、その収入の多くは、
- 家賃
- 食費
- 家族の生活費
- 教育費
- 借金の返済
- 失業に備えた貯金
などに使われます。
したがって、賃金が高くても、長期間失業すれば生活は急速に悪化します。
恐慌時には、蓄えを使い果たし、家財を売り、最後には救貧院や慈善に頼らざるを得な
い労働者も現れました。1857年恐慌の際には、救貧院の周囲に飢えた人々が集まる状況
も記録されています。
5.この部分の中心的な主張
マルクスの主張は、次のようにまとめられます。
資本主義では、最も低い賃金の労働者だけでなく、比較的高い賃金を得ていた労働者も、恐慌によって生活を破壊される。
つまり、労働者階級の内部には賃金の差があっても、資本に雇われているという共通の
不安定さがあります。
高賃金労働者も、資本家から見れば「必要なときに雇い、不要になれば解雇する労働力」
にすぎません。
✅今回の重要ポイント
- 「最高給部分」とは、熟練労働者や技能労働者である
- 高賃金でも、恐慌になれば失業する
- 熟練や技術があっても、資本の都合に左右される
- 失業が長引けば、貯金や生活基盤を失う
- 恐慌は低賃金労働者だけでなく、労働者階級の上層にも及ぶ
- 資本主義の「安定」は、景気が続く間だけの一時的なものになりやすい
現代とのつながり
現代でも、正社員、専門職、高収入の会社員であっても、企業の倒産、リストラ、業界
不況によって生活が急変することがあります。
IT技術者、製造業の熟練者、管理職なども、会社や産業全体が縮小すれば、技能だけで
雇用を守れるとは限りません。
この点でマルクスは、労働者の生活を不安定にする原因は、個人の能力不足だけではなく、資本の増減や景気循環にもあると考えたのです。

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