📘『資本論』再学習 第50回
第1巻 第1冊「資本の生産過程」
第4篇 相対的剰余価値の生産
第13章 機械装置と大工業
第6節「機械装置によって駆逐された労働者についての補償説」
前回の第5節では、機械によって仕事や生活を奪われた労働者が、当初は機械そのものを破壊
する闘いに向かったことを学びました。
今回の第6節では、機械によって失業者が生まれても、やがて別の仕事が増えて失業者は再雇用
されるという**「補償説」**を、マルクスが批判します。
🌟今回の重要ポイント
✅ 機械の導入で労働者が解雇されても、同じ人数を雇う資本が自動的に生まれるわけではない
✅ 労働者の賃金に使われていた資本は、機械を購入する資本へと姿を変える
✅ 機械関連産業で雇用が増える場合はあるが、解雇された労働者が必ず再雇用される保証はない
✅ 失業した労働者は商品を買えなくなるため、ほかの産業にも失業が広がる可能性がある
✅ マルクスは技術の発達そのものではなく、技術が資本の利益のために使われる仕組みを問
題にしている
1.「補償説」とは何か
当時の経済学者の一部は、次のように考えていました。
機械が労働者を失業させても、労働者に支払われなくなった賃金が「自由な資本」となり、
別の場所で労働者を雇うために使われる。
つまり、
機械による失業
→ 資本が余る
→ 新しい産業に投資される
→ 失業者が再雇用される
という説明です。
この考え方では、機械が一時的に失業を生み出しても、社会全体では新しい雇用が生まれるた
め、最終的には労働者の損失が「補償される」とされます。マルクスが批判したのは、この再
雇用が必ず自動的に起こるという主張です。
2.マルクスの具体例
あるカーペット工場が、100人の労働者を雇っているとします。
労働者1人の年間賃金を30ポンドとすると、賃金総額は次のようになります。
機械導入前
原材料などの不変資本:3,000ポンド
100人分の賃金である可変資本:3,000ポンド
資本総額:6,000ポンド
ところが、資本家が1,500ポンドの機械を導入し、50人を解雇したとします。
機械導入後
原材料:3,000ポンド
機械:1,500ポンド
残った50人の賃金:1,500ポンド
資本総額:6,000ポンド
資本総額は、導入前も導入後も6,000ポンドです。
しかし、その内訳が変わりました。
賃金に使われていた1,500ポンドが、機械に使われる資本へ変わったのです。
したがって、1,500ポンドが自由になって、解雇された50人を別の場所で雇えるようになった
わけではありません。資本は「解放」されたのではなく、労働力を買う可変資本から、機械と
いう不変資本へ転化したのです。
3.機械が安ければ資本は余るのでは?
機械の価格が、削減された賃金より安い場合はどうでしょうか。
たとえば、削減された賃金が1,500ポンドなのに対して、機械が1,000ポンドなら、差額の500
ポンドは残ります。
しかし、1人30ポンドの賃金だけを考えても、500ポンドで雇えるのは約16人です。解雇され
た50人全員を雇うことはできません。
さらに、実際に労働者を雇って生産を始めるには、賃金だけでなく、
原材料
建物
道具
燃料
運搬設備
なども必要です。
そのため、実際に再雇用できる人数は、さらに少なくなります。機械が労働者の賃金より安
かったとしても、解雇された全員を雇うだけの資本が生まれるとは限りません。
4.機械を造る産業で雇用が増えるのでは?
機械を導入すれば、その機械を製造する労働者の仕事は増えるかもしれません。
しかし、機械の価格のすべてが機械製造労働者の賃金になるわけではありません。機械の
価格には、
機械製造労働者の賃金
鉄や部品などの原材料費
工場や設備の価値
機械メーカーの剰余価値
などが含まれています。
したがって、1,500ポンドの機械が購入されたからといって、1,500ポンド分すべての新しい
賃金や雇用が生まれるわけではありません。
また、カーペット職人として働いてきた人が、すぐに機械製造の仕事へ移れるとは限りま
せん。必要な技能や勤務地、年齢、賃金水準も異なるためです。
5.失業者は「買い手」でもなくなる
マルクスの反論で重要なのが、労働者は生産者であると同時に、商品の買い手でもあると
いう点です。
労働者は受け取った賃金で、
食料
衣服
住宅
日用品
などを購入します。
ところが、機械によって失業すれば、賃金を失い、商品を買えなくなります。
すると生活手段への需要が減り、それらを生産する産業でも商品が売れにくくなります。
その結果、機械を導入していない別の産業でも、生産縮小や失業が起こる可能性があります。
つまり、機械による失業は、一つの工場だけの問題ではありません。
失業者の購買力低下
→ 商品需要の減少
→ 他産業の生産縮小
→ さらなる失業
という連鎖が起こり得るのです。
6.マルクスは「機械が雇用を増やす可能性」を否定して
いない
ここは誤解しやすいところです。
マルクスは、機械の導入によって新しい雇用が生まれる可能性を、全面的に否定しているわけ
ではありません。
生産量が増えれば、
原材料を生産する産業
運輸業
機械製造業
新しく誕生した商品やサービスの産業
などで雇用が増えることがあります。
しかし、それは機械によって解雇された労働者が、同じ資本によって自動的に再雇用された
ということではありません。
再雇用が行われるには、市場の拡大や新しい投資、つまり追加資本が必要です。新たな雇用
が生まれることはあっても、それは「必ず同じ人数が補償される」という補償説の証明には
ならないのです。
7.機械は労働者の味方か、敵か
機械そのものは、本来なら人間の労働を軽くし、必要な労働時間を短縮できるものです。
しかし、資本主義のもとでは、機械は主に、
生産費を下げる
労働者数を減らす
労働者同士を競争させる
賃金を抑える
剰余価値を増やす
ために利用されます。
そのため、社会全体の生産力が高まっても、労働者には労働時間の短縮や生活の安定として
還元されず、失業や低賃金として現れることがあります。
問題は機械そのものではなく、機械を誰が所有し、何の目的で使うのかという社会関係にあ
るのです。
🤖現代社会とのつながり
現在も、AI、産業用ロボット、セルフレジ、自動運転、無人倉庫などが広がると、「新しい
仕事が生まれるから心配はない」という説明がよく聞かれます。
確かに新しい職業は生まれます。しかし、
失われる仕事と新しい仕事の人数は同じなのか
失業した人が新しい仕事に移れるのか
新しい仕事の賃金や雇用条件は良いのか
技術によって生まれた利益を誰が受け取るのか
という問題は残ります。
第6節は、単に「機械は雇用を奪う」と主張しているのではありません。
技術革新による利益が増えれば、失業者も自動的に救われるという楽観論には根拠がない
と指摘しているのです。
📝今回のまとめ
第6節でマルクスは、機械によって労働者が解雇されても、同じ労働者を雇う資本が自動的
に生まれるという「補償説」を批判しました。
賃金に使われていた可変資本は、機械という不変資本へ転化したのであり、自由な資本と
して残ったわけではありません。
新しい産業で雇用が増える場合はありますが、それには新しい市場や追加資本が必要です。
しかも、解雇された労働者が実際に再雇用される保証はありません。
第6節の核心
機械によって失われた雇用は、機械自身によって自動的に補償されるわけではない。
生産力の発展が労働者の幸福につながるためには、技術の進歩だけでなく、その成果を社会
全体でどのように分配するのかが問われるのです。

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