📘『資本論』再学習 第54回
第1巻 第1冊「資本の生産過程」
第4篇 相対的剰余価値の生産
第13章 機械装置と大工業
第8節 大工業によるマニュファクチュア・手工業・家内労働の変革
c.近代的マニュファクチュア
今回の重要ポイント
✅ 近代的マニュファクチュアとは、大工業が支配する社会の中に残された手工業的な生産形
態である
✅ 原料や半製品は機械制大工業から供給されるが、作業の中心には手作業が残っている
✅ 女性・児童・若年労働者などの安価な労働力が大量に利用された
✅ 長時間労働、有害物質、換気不足などによって労働者の健康が破壊された
✅ 生産手段の節約が、労働者の生命と健康の浪費に転化した
✅ 近代的マニュファクチュアは、やがて機械制工場へ移行する過渡的な生産形態でもある
1.近代的マニュファクチュアとは何か
「マニュファクチュア」は、日本語では「工場手工業」と訳されます。
多数の労働者を一つの作業場に集め、工程を細かく分けて商品を生産しますが、作業の中心に
は依然として人間の手と道具があります。
今回扱う「近代的マニュファクチュア」は、第12章で学習した古典的なマニュファクチュアと
は少し違います。
古典的マニュファクチュアは、機械制大工業が成立する以前の生産形態でした。これに対して
近代的マニュファクチュアは、すでに機械制大工業が社会の中心となった時代に、その影響を
受けながら存在する生産形態です。
簡単に整理すると、次のようになります。
つまり、近代的マニュファクチュアとは、古い手工業的な作業方法と、新しい機械制大工業と
が結びついた中間的・過渡的な生産形態なのです。
2.大工業の「周辺部」として存在する
近代的マニュファクチュアは、機械制大工業から切り離された独立の世界ではありません。
原料、道具、機械で作られた部品や半製品などは、すでに大工業から供給されています。しか
し、それらを加工して完成品にする段階では、手作業と細かな分業が残されています。
例えば衣服の生産では、布や糸は機械制工場で大量生産されます。一方、裁断、縫製、仕上
げなどは、多数の労働者による手作業で行われる場合がありました。
生産の流れは、次のようになります。
近代的マニュファクチュアは大工業に対立する存在ではなく、実際には大工業を補完する下請
け的な部門になっていたのです。
3.なぜ安価な労働力が利用されたのか
機械制工場では、機械が筋力に代わるため、女性や児童も生産過程に組み込まれました。
しかし近代的マニュファクチュアでは、重量物の運搬や有害物質を扱う作業など、人力に依存
する厳しい仕事が数多く残っていました。
それにもかかわらず、資本は次のような労働者を積極的に雇いました。
女性労働者
児童労働者
若年労働者
未熟練労働者
貧困によって仕事を選べない人々
最大の理由は、賃金を低く抑えられたからです。
資本にとって重要なのは、労働者の体力や健康を守ることではなく、できるだけ少ない賃金で、
できるだけ長く働かせることでした。
このため「安い労働力」と「長い労働時間」が、近代的マニュファクチュアの競争力の土台と
なりました。
4.マルクスが取り上げた実例
マルクスは、当時のイギリス政府による工場調査報告などを使い、近代的マニュファクチュア
の実態を紹介しています。
金属加工業
イギリスのバーミンガム周辺では、真鍮加工、ボタン製造、ほうろう加工、メッキ、塗装など
に、多数の女性・児童・若年労働者が雇われていました。
作業場では、粉じん、有毒ガス、薬品、高温などにさらされる危険がありました。
印刷・製本業
ロンドンの一部の印刷所は、過酷な長時間労働のため、当時「屠殺場」と呼ばれるほどでした。
本の製本作業でも、女性や少女、児童が長時間働かされました。
ぼろ布の選別
古着やぼろ布を分類する仕事には、主として女性や少女が使われました。
世界各地から集められた汚れた布を直接扱うため、天然痘などの感染症が広がる危険があり
ました。
レンガ・タイル製造
レンガやタイルの製造現場では、幼い子どもまで働かされました。
マルクスが紹介する調査では、4歳や6歳の子どもが成人と同じような長時間労働に従事した事
例も記録されています。
暑い時期には早朝から夜まで働き、重い粘土やレンガを運ばなければなりませんでした。
5.生産手段の節約と労働力の浪費
資本家は、商品を安く生産するために、建物、照明、換気、衛生設備などへの支出を削減しよ
うとします。
狭い部屋に多数の労働者を詰め込み、換気設備や安全設備を設置しなければ、生産費を節約で
きます。
しかし、その「節約」によって犠牲になるのは労働者です。
狭く不衛生な作業場
換気や採光の不足
有害な粉じんや薬品
長時間労働と夜間労働
休憩時間の不足
病気や事故の増加
労働者の早死に
ここには、資本主義的生産の重大な矛盾があります。
物や設備にかかる費用は節約される一方で、人間の生命と労働力は浪費される。
つまり、資本にとっての「合理化」が、労働者にとっては健康と生命の破壊になるのです。
6.なぜ労働者は危険な環境を拒否できないのか
一人の労働者が、「換気を良くしてほしい」「労働時間を短くしてほしい」と要求しても、雇用
主に拒否されれば仕事を失う可能性があります。
労働力を売らなければ生活できない労働者は、形式的には自由であっても、実際には危険な労
働条件を受け入れざるを得ません。
ここで重要なのは、労働者個人の注意や自己責任では解決できないという点です。
労働者と資本家の間には、経済的な力の差があります。そのため、安全や衛生を確保するには、
労働者の団結や法律による規制が必要になります。
マルクスが引用した公衆衛生報告も、労働者自身の力だけで衛生上の権利を確保することは困難
だと指摘しています。
7.近代的マニュファクチュアは過渡的形態である
近代的マニュファクチュアは、いつまでも変わらずに存在するわけではありません。
市場が拡大し、資本家同士の競争が激しくなると、安い労働力を長時間働かせるだけでは生産
量を増やせなくなります。
人間の体力には限界があるからです。
そこで資本は、さらに生産力を高めるために機械を導入します。その結果、近代的マニュファ
クチュアは次第に本格的な機械制工場へ移行していきます。
この意味で、近代的マニュファクチュアは、大工業へ向かう途中に現れる過渡的な形態なの
です。
8.第53回とのつながり
前回の第53回では、工場制度がマニュファクチュアや家内労働にも反作用を及ぼすことを
学習しました。
工場で発達した機械、化学、自然科学、工程分析などの考え方が、工場の外にある産業にも入
り込みます。
その結果として成立するのが今回の近代的マニュファクチュアです。
ただし、技術の一部が近代化されても、すぐに労働条件が改善されるわけではありません。
むしろ古い手工業的な作業方法と、近代的な資本による支配が結びつくことで、搾取が一層
激しくなる場合があります。
9.現代社会とのつながり
現代では、19世紀のイギリスと同じ形の児童労働は、多くの国で法律によって禁止されて
います。
しかし、この節が示す仕組みは、現代にも通じる部分があります。
例えば、企業が生産工程を下請け、孫請け、個人事業主、在宅労働者、海外工場などに分散
させる場合です。
表面上は独立した事業者でも、実際には大企業からの注文、価格、納期に強く支配されること
があります。
低い委託単価
突然の大量注文
短い納期
安全費用の削減
長時間労働
労働者の自己責任化
これは、近代的マニュファクチュアや家内労働が、大工業の「外部部門」として組み込まれた
構造に似ています。
ただし、現代の働き方を19世紀と単純に同一視するのではなく、「生産を支配する者」と「危
険や費用を負担する者」が分離していないかを見ることが大切です。
10.今回のまとめ
近代的マニュファクチュアとは、機械制大工業が発展した社会の中に残る手工業的分業の生産
形態です。
原料や半製品は大工業から供給されますが、生産現場では人間の手作業が大きな役割を担います。
資本は女性、児童、若年労働者などの安価な労働力を利用し、長時間労働や劣悪な作業環境によ
って商品を安く生産しました。
資本家による建物・換気・安全設備などの節約は、労働者の健康と生命の浪費につながります。
しかし、労働力の酷使には肉体的な限界があります。市場と生産量が拡大すると、資本は機械を
導入し、近代的マニュファクチュアを機械制工場へ移行させていきます。
今回の核心
大工業の発展は、古い生産形態をただ消滅させるのではなく、それを資本の支配下で作
り替え、過酷な搾取の場として利用しながら、最終的には機械制工場へ移行させていく。

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