『資本論』再学習 第42回
第1巻 第1冊「資本の生産過程」
第4篇 相対的剰余価値の生産
第12章 分業と工場手工業
第5節 工場手工業の資本主義的性格
この節でマルクスは、工場手工業、つまりマニュファクチュアが、単に効率のよい生産方法
ではなく、労働者を資本の支配下に置く仕組みでもあることを明らかにします。
1.工場手工業とは何か
工場手工業は、機械による大量生産が中心になる以前の生産形態です。
一つの商品を作る作業を細かく分け、多数の労働者が、それぞれ一部分だけを担当します。
例えば、一本の針を作る場合でも、
針金を伸ばす人
切る人
先を尖らせる人
頭を付ける人
磨く人
包装する人
というように、工程を分担します。
一人の職人が最初から最後まで作るのではなく、多数の労働者による部分労働の組み合わ
せによって、一つの商品が完成するのです。
2.労働者は「部分労働者」になる
独立した職人は、材料を加工し、一つの完成品を作るための幅広い知識と技術を持って
いました。
しかし工場手工業では、労働者は一つの単純な作業だけを繰り返します。
その結果、労働者は一つの商品を自分で作り上げる能力を失い、特定の工程だけを行う部
分労働者になります。
部分労働者は、自分一人では商品を完成させられません。ほかの労働者と組み合わされ、
資本家が管理する工場の中で働いて、初めて生産に参加できます。
つまり、労働者は資本家が組織する生産の仕組みに、より強く依存するようになるのです。
3.「全体としての労働者」が商品を作る
工場手工業では、一人の労働者が商品を作るのではありません。多数の部分労働者を組み
合わせた集団が、全体として一つの商品を作ります。
マルクスは、この労働者集団を結合された総体労働者、または全体労働者として捉えます。
生産力が高まるのは、個々の労働者が急に優秀になったからではありません。
作業が専門化される
作業間の移動時間が減る
同じ作業を繰り返して熟練する
各工程が一定の割合で配置される
多数の労働者が同時に働く
という、集団的な仕組みによって生産力が上昇します。
しかし、この集団的生産力は労働者自身の力としてではなく、資本の生産力として現れます。
4.労働者の共同の力が「資本の力」に見える
工場で働く労働者たちが協力して生み出した生産力は、本来は労働者の社会的な力です。
ところが工場、原料、道具、完成品を所有しているのは資本家です。また、誰をどこに配置し、
どの速度で働かせるかを決めるのも資本家です。
そのため、労働者の共同作業によって生まれた力が、あたかも資本家自身が持っている力のよ
うに見えます。
ここに資本主義的生産の重要な特徴があります。
労働者が集団で生み出した生産力が、労働者から独立し、資本の力として労働者に向かってくる。
労働者自身が生み出した仕組みによって、逆に労働者が管理され、支配されるのです。
5.工場内に階層が生まれる
工場手工業では、作業の難しさや必要な熟練の程度によって、労働者が分けられます。
高度な熟練を必要とする労働者
一定の技能を持つ労働者
単純作業を担当する労働者
補助的な作業を行う労働者
このような区分によって、賃金にも差が生まれます。
また、工程全体を管理する監督者や職長なども置かれます。工場内の分業は、単なる技術的
な分担ではなく、命令する者と命令される者という支配の階層を作ります。
資本家は、この階層構造を利用して、労働者を管理し、生産速度を高めます。
6.熟練の発達と同時に、労働能力が狭められる
一つの作業を何度も繰り返せば、その作業については非常に熟練します。
その意味では、工場手工業は労働者の特殊な技能を発達させます。
しかし一方で、労働者は全体の生産過程を理解し、完成品を作る能力を失っていきます。
例えば、靴の底だけを取り付け続ける労働者は、その作業には熟練しても、一足の靴を自分
で作ることはできなくなります。
つまり、
特定の能力は発達する
総合的な能力は衰える
労働者の仕事の範囲が狭くなる
資本への依存が強まる
という矛盾が生まれます。
マルクスは、工場手工業が労働者を一面的に発達させる一方で、人間としての多面的な能力
を損なうと考えました。
7.精神的能力と肉体労働が分離される
独立した職人は、自分で仕事の順序を考え、材料を判断し、問題を解決しながら商品を
作っていました。
ところが分業が進むと、生産全体について考える仕事と、実際に手を動かす仕事が分離します。
生産の計画、設計、管理、計算などは、資本家や監督者の側に集中します。労働者には、決
められた単純作業だけが残されます。
その結果、
生産について考える力は資本側に集まる
労働者は指示された作業を行う
労働者は生産全体を見通せなくなる
という状態が生まれます。
個々の労働者が失った知識や判断力は、工場全体の仕組みや管理能力として、資本の側に
蓄積されるのです。
8.相対的剰余価値が増加する
工場手工業の分業によって労働生産性が上昇すると、同じ時間内に、より多くの商品を生産
できるようになります。
特に、労働者が生活するために必要な食料、衣服、日用品などの生産性が高まれば、それら
の商品価値が低下します。
生活必需品が安くなれば、労働力の価値も低下します。すると、一日の労働時間を延ばさな
くても、必要労働時間を短くし、剰余労働時間を長くできます。
例えば、一日の労働時間が8時間の場合、
必要労働時間:4時間
剰余労働時間:4時間
だったものが、生産性の上昇によって、
必要労働時間:3時間
剰余労働時間:5時間
となれば、資本家が取得する剰余価値は増えます。
これが相対的剰余価値の生産です。
9.女性や子どもの労働も利用しやすくなる
作業が細かく分割され、単純化されると、長期間の職人修業をしなくても働ける工程が増えます。
そのため資本家は、熟練した成人男性だけでなく、女性、子ども、未熟練労働者も生産に組
み込めるようになります。
これは資本家にとって、
労働力を集めやすい
熟練労働者への依存を減らせる
より低い賃金の労働力を使える
労働者同士を競争させられる
という利点を持ちます。
工場手工業の分業は、生産力を上げるだけでなく、労働力を安く調達する条件も作るのです。
10.工場手工業には限界もある
工場手工業では、作業が分割されても、中心となるのは人間の手作業です。そのため、労働
者の技能や体力に依存します。
熟練労働者は、資本家に抵抗する力を完全には失っていません。また、人間の手作業には速
度や正確さの限界があります。
さらに、各工程を担当する労働者を適切な人数で配置しなければ、生産が滞ります。ある工
程が遅れれば、全体が止まる可能性もあります。
資本は、こうした人間の技能への依存を乗り越えようとします。その先に登場するのが、次
の段階である機械制大工業です。
工場手工業によって細分化された作業は、後に機械へ置き換えやすい形に整理され
きます。
この節の重要ポイント
✅ 工場手工業では、労働者は商品全体ではなく、一部分だけを作る「部分労働者」になる。
✅ 多数の部分労働者を組み合わせた「全体労働者」が商品を生産する。
✅ 労働者の共同作業による生産力が、資本家の力として現れる。
✅ 分業は生産性を高める一方、労働者の能力を一面的なものにする。
✅ 生産全体を考える知識や判断力は、労働者から切り離され、資本の側に集中する。
✅ 作業の単純化によって、女性・子ども・未熟練労働者を低賃金で利用しやすくなる。
✅ 生産性の上昇は必要労働時間を短縮し、相対的剰余価値を増加させる。
✅ 工場手工業には手作業への依存という限界があり、やがて機械制大工業へ移行する。
まとめ
工場手工業の分業は、生産力を大きく高めました。しかし、その生産力の発展は、労働者を
豊かで自由な人間にする形では進みませんでした。
労働者は作業の一部分だけを担当し、商品全体を作る能力や、生産を自分で計画する力を失
っていきます。一方、労働者たちの共同作業によって生まれた力は、資本の力として現れます。
マルクスが問題にしているのは、分業そのものではありません。分業が資本家の利益と支配
のために組織されていることです。
工場手工業の資本主義的性格とは、労働者の社会的な生産力を発展させながら、その力を
者自身のものとはせず、資本による支配と剰余価値の増大に利用する点にあるのです。

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