📚『資本論』再学習 第44回
第1巻 第1冊「資本の生産過程」
第4篇 相対的剰余価値の生産
第13章 機械装置と大工業
第2節 生産物に対する機械装置の価値移転
今回のテーマは、高価な機械を導入すると、なぜ商品を安く大量に生産できるのかという
問題です。
機械そのものは非常に高価です。それにもかかわらず、機械制大工業では、手工業よりも
商品の価値を低くできます。
この一見すると矛盾している問題を、マルクスは「機械の価値が商品にどのように移転さ
れるか」という視点から説明しています。
1.機械は新しい価値を生み出さない
マルクスは、機械を原料や建物などと同じ不変資本に分類します。
機械は商品を大量に生産しますが、機械そのものが新しい価値を創造するわけではありま
せん。機械は、自分がすでに持っている価値の一部を、生産される商品に移すだけです。
新しい価値を生み出すのは、生産過程で支出される労働者の生きた労働です。
したがって、商品の価値は大まかに次のように考えられます。
商品の価値=原料の移転価値+機械の移転価値+労働者が新しく生み出した価値
労働者が新しく生み出した価値は、さらに次の二つに分かれます。
新しく生み出した価値=労働力の価値(賃金部分)+剰余価値
つまり、機械は剰余価値を直接生み出す存在ではありません。
2.機械は「全体」で働き、「部分的」に価値を移す
この節で最も重要なのが、次の考え方です。
機械は、労働過程には全体として参加するが、価値形成過程には一部分ずつ参加する。
例えば、工場に1,000万円の機械が設置されているとします。
その機械は、毎日「機械全体」として商品を生産します。しかし、1日の生産物に1,000万円
すべてが移されるわけではありません。
耐用期間を5年間、年間250日稼働すると仮定すると、稼働日数は合計1,250日です。
1日当たりの価値移転
1,000万円÷1,250日=8,000円
1日に1,000個の商品を生産すれば、機械から商品1個に移る価値は、
8,000円÷1,000個=8円
となります。
このように、機械は摩耗・消耗する分だけ、少しずつ自分の価値を商品に移します。
現代の会計でいう減価償却に似ていますが、マルクスはこれを価値論の立場から説明
しています。
3.価値を移転した後の働きは「無償の奉仕」
機械は、平均的な摩耗分以上の価値を商品に移すことはありません。
しかし、機械が発揮する生産能力は非常に大きく、少量の摩耗によって大量の商品を生産
できます。
マルクスは、機械の摩耗分や石炭・油などの補助材料を差し引けば、機械は自然力と同じ
ように「無償」で働くと説明します。ここでいう無償とは、機械に価値がないという意味
ではありません。
機械が失った価値以上の価値を、商品に追加しない
という意味です。
蒸気、水力、電気などの自然力そのものには価値はありません。しかし、それらを利用
するためには、蒸気機関や水車、発電設備など、人間の労働によって作られた装置が必
要です。その装置の価値だけが、摩耗に応じて商品へ移ります。
4.大量生産ほど商品1個への価値移転は小さくなる
機械によって商品を安くできる最大の理由は、機械の価値を大量の商品に分散できる
ことです。
同じ1日8,000円の価値を移転する機械でも、生産量によって商品1個当たりの負担は
変わります。
機械が速く動き、より多くの商品を生産するほど、商品1個に移転される価値は小さく
なります。
マルクスは、巨大な蒸気ハンマーの摩耗分が大量の鉄製品に分散されれば、鉄製品一つ
当たりの価値移転はわずかになると説明しています。反対に、その巨大な機械を釘一本
を打つためだけに使えば、釘に移る価値は非常に大きくなります。
5.機械の生産性は何によって決まるのか
マルクスによれば、機械の生産性は単に機械の価格や速度だけでは測れません。
重要なのは、
機械を生産するために必要な労働量と、その機械によって置き換えられる人間
労働量との差
です。
機械を作るのに1万時間の労働が必要で、その機械が使用期間中に10万時間の人間労働
を節約するなら、社会全体として9万時間の労働が節約されます。
しかし、機械を作るのに10万時間が必要で、節約できる労働も10万時間なら、労働が別
の場所に移っただけです。商品の生産に必要な総労働量は減っていません。
そのため、マルクスは機械の生産性を、機械が代わりをする人間の労働力の大きさによ
って測ると述べています。
6.「絶対的には減少し、相対的には増加する」とは?
機械制生産では、商品価値のうち機械などの労働手段から移転される部分が、
絶対額では小さくなる
商品全体に占める割合では大きくなる
ことがあります。
例えば、手工業では次のようになっていたとします。
機械から移る価値は、10円から8円へと絶対的には減少しています。
ところが、商品価値全体に占める割合は、
手工業:10%
機械制生産:20%
となり、相対的には増加しています。
機械制生産では、生きた労働によって新しく加えられる価値が大幅に減るため、機械の
移転価値の割合が大きく見えるのです。
7.社会的な基準と資本家の基準は違う
ここは非常に重要なポイントです。
社会全体の立場から見れば、機械を導入する基準は、
機械を作るための労働量が、機械によって節約される労働量より少ないこと
です。
しかし、資本家は労働者が生み出す価値のすべてを賃金として支払っているわけでは
ありません。資本家が支払うのは、労働そのものの価値ではなく、労働力の価値=賃金
です。
そのため、資本家が機械を導入する基準は、
機械の費用が、節約できる賃金より安いかどうか
になります。
この違いによって、社会的には労働を大幅に節約できる機械でも、賃金が非常に安けれ
ば導入されない場合があります。資本家にとって重要なのは人間労働の節約そのものでは
なく、支払う賃金の節約だからです。
8.機械導入の目的は労働者を楽にすることではない
機械には、本来、人間の労働時間を短縮し、重労働から解放する可能性があります。
しかし、資本主義的生産における機械導入の目的は、労働者の負担軽減ではありません。
目的は、
商品を安くする
労働生産性を高める
労働力の価値を引き下げる
必要労働時間を短縮する
剰余労働時間を拡大する
ことにあります。
つまり、機械は相対的剰余価値を生産するための手段として導入されます。
ただし、機械そのものが剰余価値を生み出すのではありません。機械によって労働生産
性が高まり、必要労働時間が短縮されることで、労働者の一日のうち資本家のために無
償で働く時間が相対的に長くなるのです。
🌟今回の重要ポイント
✅ 機械は不変資本であり、新しい価値を創造しない。
✅ 機械は、自分が摩耗・消耗した分だけ商品へ価値を移す。
✅ 機械は労働過程には全体として参加するが、価値形成過程には一部分ずつ参加する。
✅ 機械の価値が大量の商品に分散されるほど、商品1個当たりの価値移転は小さくなる。
✅ 機械の生産性は、機械が代替・節約する人間労働の大きさによって測られる。
✅ 商品に含まれる機械の価値は、絶対的には減少しても、商品価値全体に占める割合で
は増加することがある。
✅ 社会的には「総労働の節約」が機械導入の基準になる。
✅ 資本家にとっては「機械の費用と節約できる賃金との差」が導入の基準になる。
✅ 賃金が極端に安い場合、社会的には有効な機械でも導入されないことがある。
✅ 機械は剰余価値を直接生産せず、生産性を高めて相対的剰余価値の生産を可能にする。
📝ひとことでまとめると
機械は新しい価値を生み出すのではなく、自分の価値を少しずつ商品に移す。
しかし、大量の商品を生産して人間労働を節約するため、商品1個当たりの価値
を低下させ、相対的剰余価値の拡大に役立つのです。

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