📘『資本論』再学習 第46回
第1巻 第1冊「資本の生産過程」
第4篇 相対的剰余価値の生産
第13章 機械装置と大工業
第3節 機械経営が労働者に及ぼす第1次的影響
b 労働日の延長
🌟今回の重要ポイント
✅ 機械は本来、商品を生産するための労働時間を短縮できる
✅ しかし資本主義のもとでは、労働日を延長する手段として使われる
✅ 高価な機械を長時間動かすほど、資本家は機械の価値を早く回収できる
✅ 機械は労働者を減らすため、資本家は残った労働者の労働時間を延ばそうとする
✅ 労働時間を短縮するはずの機械が、労働者の自由時間を奪うという矛盾が生まれる
1.機械は労働を短くするはずではないのか
機械が導入されると、一つの商品をつくるために必要な労働時間は短くなります。
例えば、手作業では1日に10個しかつくれなかった商品が、機械を使えば100個つくれるよう
になります。
普通に考えれば、
「同じ量の商品を短い時間でつくれるのだから、労働者は早く仕事を終えられる」
となるはずです。
しかしマルクスは、資本のもとでは逆のことが起きると指摘します。
機械は、労働時間を短縮する手段でありながら、資本家の手に握られると、労働日を人間の限
界を超えて延長する強力な手段へと変わります。
ここに、この項の中心的な矛盾があります。
2.目的は労働者を楽にすることではない
資本家が機械を導入する直接の目的は、労働者の負担を軽くしたり、自由時間を増やしたり
することではありません。
目的は、商品の生産費を引き下げ、より多くの剰余価値を獲得することです。
労働日の構成を簡単に表すと、次のようになります。
労働日=必要労働時間+剰余労働時間
必要労働時間とは、労働者が自分の賃金に相当する価値を生産する時間です。
剰余労働時間とは、賃金を受け取らずに資本家のために働く時間です。
機械によって生活必需品が安くなれば、労働力の価値も低下し、必要労働時間が短くなります。
例えば、
必要労働時間が6時間
剰余労働時間が6時間
だったものが、
必要労働時間が4時間
剰余労働時間が8時間
になる可能性があります。
これが機械による相対的剰余価値の生産です。
ところが資本は、それだけでは満足しません。
労働日そのものを12時間から14時間、16時間へ延ばせば、絶対的剰余価値も増やせます。
つまり資本は、
必要労働時間を短くすると同時に、労働日全体を長くしようとする
のです。
3.高価な機械を止めたくない
機械は非常に高価な固定資本です。
工場や機械を購入した資本家にとって、機械が止まっている時間は、利益を生まない時間に見えます。
一方、機械を長時間動かせば、より多くの商品を生産でき、機械の価値をより多くの商品に
分散できます。
例えば、同じ機械を、
1日8時間、15年間動かす
1日16時間、7年半動かす
場合を考えます。
総稼働時間が同じでも、後者のほうが機械の価値を短期間で回収できます。その間により多く
の剰余価値も獲得できます。マルクスは、この点を機械の長時間使用を促す重要な動機として
説明しています。
資本家から見れば、
「高いお金を払って買った機械なのだから、できるだけ休ませずに動かしたい」
ということになります。
しかし機械だけでは商品を生産できません。
機械を動かし、監視し、材料を運び、調整する労働者も長時間働かされることになります。
4.機械には「道徳的摩耗」がある
機械は、使用によって物理的に摩耗するだけではありません。
まだ正常に動く機械であっても、より安い新型機械や、性能の高い機械が登場すれば、古い
機械の価値は低下します。
マルクスはこれを、機械の道徳的摩耗と呼んでいます。
例えば、1億円で購入した機械があっても、翌年に同じ性能の機械が5,000万円で販売されれば
、古い機械の価値も下がります。
さらに、2倍の生産能力を持つ新型機械が登場すれば、旧型機械は競争で不利になります。
そのため資本家は、
「新型機械が登場する前に、現在の機械をできるだけ長時間動かし、投資額を回収したい」
と考えます。
とくに機械が初めて導入された時期には、この圧力が強くなります。
5.機械を先に導入した資本家は特別な利益を得る
新しい機械を他社より早く導入した資本家は、商品を社会的な平均よりも少ない労働時間で
生産できます。
それでも市場では、しばらくの間、従来の高い価格で商品を販売できます。
そのため、先に機械を導入した資本家は、一時的に特別な剰余価値を獲得できます。
しかし、やがて他の資本家も同じ機械を導入します。
すると商品の市場価値は下がり、特別な利益は消えてしまいます。
そこで先行する資本家は、特別な利益が得られる短い期間に機械を最大限利用しようとして、
労働日を延長します。マルクスは、機械導入初期の特別利益が、資本家の利潤欲をさらに刺
激すると説明しています。
6.労働日を延ばせば設備を増やさず生産を拡大できる
生産量を増やすために労働者を増やせば、機械や工場、作業場所なども増やさなければなら
ない場合があります。
しかし既存の労働者の労働時間を延ばせば、機械や工場を新たに購入しなくても、生産量を増
やせます。
例えば、1日8時間動かしていた工場を12時間動かせば、同じ建物と機械を利用して生産規模
を拡大できます。
もちろん原材料や燃料は追加で必要になりますが、工場や機械をもう一組購入する必要はあ
りません。したがって労働日の延長は、資本家にとって、
生産量を増やせる
剰余価値を増やせる
新たな設備投資を抑えられる
という三つの効果を持ちます。
7.機械は剰余価値を生み出さない
ここは非常に重要です。
機械そのものは、新しい価値や剰余価値を生み出しません。
機械は、自分が持っている価値を少しずつ商品へ移転するだけです。
新しい価値をつくるのは、機械を使って働く人間の労働です。
したがって、機械を導入して労働者を大幅に減らすと、一人ひとりから得られる剰余価値率
が高くなっても、剰余価値を生み出す労働者の人数そのものは減少します。
これが、機械による剰余価値生産に内在する矛盾です。
8.剰余価値率と剰余価値量の違い
剰余価値の総量は、おおまかに次の二つによって決まります。
労働者一人からどれだけ剰余労働を引き出すか
何人の労働者を雇っているか
例えば、機械導入前に12人の労働者が働き、一人4時間ずつ剰余労働をしていたとします。
12人×4時間=48時間
機械導入後、労働者が4人に減り、一人の剰余労働が6時間になったとします。
4人×6時間=24時間
一人当たりの剰余労働は4時間から6時間へ増えています。
つまり剰余価値率は上昇しています。
しかし労働者数が大きく減ったため、剰余労働の総量は48時間から24時間へ減っています。
そこで資本家は、残った労働者の労働時間をさらに長くし、労働者数の減少を補おうとします。
マルクスは、機械が剰余価値率を高める一方で、剰余価値を生み出す労働者数を減少させる
という矛盾が、労働日の過度な延長を促すと説明しています。
9.機械が労働者の抵抗を弱める
前回の「a 婦人労働と児童労働」では、機械によって筋力や熟練の重要性が低下し、女性や
子どもまで賃金労働へ動員されることを学びました。
これは労働日の延長ともつながっています。
成人男性だけでなく、女性や子どもが大量に労働市場へ入れば、資本が利用できる労働力は
増加します。
また、機械によって職を失った労働者が増えれば、仕事を求める人々の競争も激しくなります。
その結果、働いている労働者は、
「長時間労働を拒否すれば、別の人に仕事を奪われるかもしれない」
という圧力を受けます。
機械は、一方で労働者を職場から追い出し、他方で失業者を利用して、働いている労働者の
抵抗を弱めるのです。
10.機械が人間を使うという逆転
本来、機械は人間が使う道具です。
しかし資本主義的な工場では、機械の速度や運転時間に人間が合わせなければなりません。
機械を止めれば資本の価値増殖も止まるため、労働者の生活や健康より、機械を連続して動
かすことが優先されます。
こうして、
人間が機械を使う
という関係が、
機械が人間を使う
という関係へ逆転します。
もちろん、機械そのものに意思があるわけではありません。
機械に資本の価値増殖という目的が与えられるため、人間が機械の運動に従属させられるのです。
11.労働時間を短縮する機械が労働日を延長する
マルクスが示した最大の逆説は、次の点です。
労働時間を短縮する最も強力な手段である機械が、資本のもとでは、労働者とその家族
の時間を資本のために差し出させる手段になる。
機械によって1個の商品を生産する時間は短縮されます。
しかし、それによって生まれた時間が労働者の自由時間になるとは限りません。
その時間は、さらに多くの商品と剰余価値を生産するために利用されます。
つまり短縮されるのは、労働者の労働日ではなく、商品の生産に必要な単位当たりの労働時間なのです。
この二つを区別することが重要です。
12.古代人が夢見た機械との違い
マルクスは、古代ギリシャの思想家や詩人にも触れています。
古代の思想家たちは、道具が自動的に仕事をするようになれば、奴隷労働は必要なくなると想
像しました。
つまり機械を、人間を労働から解放する可能性を持つものとして考えたのです。
しかし資本主義社会では、その機械が労働者の自由時間を増やすのではなく、労働日を延長す
る手段になりました。
マルクスはこの対比を通じて、問題は機械そのものではなく、機械が誰に所有され、何の目的で
使われるかにあることを示しています。
13.労働者と社会の反作用
機械による無制限な労働日の延長は、労働者の健康や生命、家族生活を破壊します。
そのため労働者は、労働時間の短縮を求めて抵抗するようになります。
この抵抗と社会的な反作用によって、やがて法律で労働時間を制限する標準労働日が成立します。
しかし労働時間が法律で短縮されると、資本は別の方法へ向かいます。
それが次回のテーマである、
「c 労働の強化」
です。
長く働かせることが難しくなれば、機械の速度を上げたり、一人の労働者により多くの機械を
担当させたりして、短い時間の中により多くの労働を詰め込もうとします。
📝今回のまとめ
機械は、人間の労働を軽減し、労働時間を短縮する可能性を持っています。
しかし資本主義のもとでは、機械は資本の価値を増殖させるために使用されます。
高価な機械をできるだけ長く稼働させ、早く投資額を回収し、競争相手より多くの利益を
得るために、資本家は労働日を延長しようとします。
また、機械は労働者一人当たりの剰余価値率を高める一方、雇用する労働者の人数を減らします。
そのため資本は、労働者数の減少を、残った労働者の労働時間を延ばすことで補おうとします。
こうして、労働時間を短縮するはずの機械が、労働者の一日とその家族の生活時間まで資本の
支配下に置く手段へと転化します。
🔑ひと言でまとめると
機械が悪いのではなく、機械が資本の利益を増やす目的で使用されることによって、
労働時間短縮の可能性が労働日の延長へと逆転する。
これが「b 労働日の延長」でマルクスが明らかにした中心的な内容です。

0 件のコメント:
コメントを投稿