📘『資本論』再学習 第59回
第1巻 第1冊「資本の生産過程」
第5篇 絶対的剰余価値と相対的剰余価値の生産
第14章 絶対的剰余価値と相対的剰余価値
今回の重要ポイント
✅ 絶対的剰余価値は、主に労働日を延長して生み出される
✅ 相対的剰余価値は、必要労働時間を短縮して生み出される
✅ 二つの方法は異なるが、資本主義の発展とともに一体化する
✅ 資本主義では、労働の生産力まで資本の生産力のように見える
✅ 「生産的労働」とは、有用な物を作る労働一般ではなく、資本に剰余価値をもたらす
労働である
✅ 自然条件は労働の生産性に影響するが、剰余価値そのものを生み出すわけではない
はじめに
これまでマルクスは、資本家が剰余価値を獲得する二つの方法を詳しく分析してきました。
労働時間を長くする「絶対的剰余価値」
必要労働時間を短くする「相対的剰余価値」
第14章では、この二つをあらためて整理し、両者が資本主義的生産の中でどのように結び
ついているのかを説明します。
また、ここでは「生産的労働とは何か」「労働の生産性と自然条件にはどのような関係があ
るのか」という重要な問題も取り上げられています。
1.絶対的剰余価値とは何か
労働者の1日の労働時間は、大きく二つに分けられます。
例えば、1日8時間働く労働者がいるとします。
必要労働時間:4時間
剰余労働時間:4時間
この場合、労働者は最初の4時間で賃金に相当する価値を生み出し、残りの4時間では資本
家のための剰余価値を生み出します。
資本家が労働時間を8時間から10時間に延長すると、次のようになります。
必要労働時間:4時間
剰余労働時間:6時間
必要労働時間を変えずに、労働日全体を延長して増やした剰余価値が「絶対的剰余価値」
です。
基本的な関係
絶対的剰余価値の基本的な関係
労働日を延長した場合
基本的な流れ
1日の労働時間
↓
必要労働時間+剰余労働時間
↓
労働日を延長する
↓
剰余労働時間が増える
↓
絶対的剰余価値が増える
必要労働時間を変えずに労働日を延長すると、その延長された時間が剰余労働時間に
なります。こうして増加する剰余価値を「絶対的剰余価値」といいます。
2.相対的剰余価値とは何か
労働日には、法律や労働者の体力による限界があります。そのため、資本家は労働時間を際
限なく延ばすことはできません。
そこで資本家は、生産力を高めて必要労働時間を短縮しようとします。
例えば、労働日が8時間の場合を考えてみましょう。
生産力が上昇する前
必要労働時間:4時間
剰余労働時間:4時間
生産力が上昇した後
必要労働時間:3時間
剰余労働時間:5時間
労働日全体は8時間のままですが、必要労働時間が1時間短くなり、その分だけ剰余労働時間
が増えています。
これが「相対的剰余価値」です。
3.なぜ必要労働時間が短くなるのか
必要労働時間を短くするには、労働者の生活に必要な商品の価値を引き下げる必要があります。
労働者が生活するためには、食料・衣服・住宅・日用品などが必要です。これらの商品を以
前より短い時間で生産できるようになれば、商品の価値は低下します。
すると、労働力の価値、つまり賃金の基礎となる生活費も低下します。
その結果、労働者が自分の賃金に相当する価値を生み出すために必要な時間が短くなるのです。
生産力の上昇
↓
生活必需品の価値が低下
↓
労働力の価値が低下
↓
必要労働時間が短縮
↓
剰余労働時間が増加
機械の導入や分業の発展は、単に人間の仕事を楽にするために行われるのではありません。
資本主義のもとでは、剰余価値を増やすための手段として利用されます。
4.絶対的剰余価値と相対的剰余価値の違い
5.二つの剰余価値は結びついている
絶対的剰余価値と相対的剰余価値は、理論上は区別できます。しかし、現実の資本主義では
両者が組み合わされています。
例えば、企業が新しい機械を導入して生産性を高めたとします。これは相対的剰余価値を増
やす方法です。
しかし、同時に労働時間を延ばしたり、夜勤や交代制を導入したりすれば、絶対的剰余価値
増やすことになります。
現代でも、次のような形で両者が組み合わされる場合があります。
機械やAIで生産性を高める
人員を減らして一人当たりの仕事量を増やす
残業や休日出勤を求める
同じ労働時間で、より多くの成果を要求する
仕事の密度や速度を高める
技術が進歩しても、必ずしも労働者の自由時間が増えるとは限りません。資本の目的が剰余
価値の増大にあるため、技術革新が労働の強化に使われることもあるのです。
6.形式的包摂から実質的包摂へ
この章を理解するうえで重要なのが、労働が資本のもとに「包摂」されるという考え方です。
形式的包摂
資本家が、すでに存在していた仕事の方法を大きく変えずに、労働者を雇って働かせる段階です。
例えば、それまで独立して働いていた職人が、資本家の工場に集められ、賃金労働者とし
て働くようになる場合です。
働き方そのものは以前と似ていますが、労働者は資本家の指揮・監督のもとに置かれます。
この段階では、労働日を延長する絶対的剰余価値の生産が中心になります。
実質的包摂
資本が生産方法そのものを作り変える段階です。
協業
分業
機械制大工業
科学技術の利用
作業工程の細分化
労働速度の管理
これらによって、労働者は機械や生産組織の一部分として組み込まれていきます。
この段階では、相対的剰余価値の生産が本格的に発展します。
7.生産的労働とは何か
日常的には、社会に役立つ仕事を「生産的な仕事」と呼びます。
しかし、マルクスが分析する資本主義における「生産的労働」は、それとは意味が違います。
資本に剰余価値をもたらす労働が、生産的労働である。
つまり、どれほど社会に役立つ仕事であっても、資本に雇われて剰余価値を生産していなけ
れば、資本主義的な意味では「生産的労働」と呼ばれない場合があります。
反対に、社会的な必要性に疑問がある商品であっても、それを生産する賃金労働が資本家に剰
余価値をもたらせば、生産的労働とみなされます。
ここでの「生産的」という言葉は、道徳的な評価ではありません。資本との関係を表す経済
学上の概念です。
8.個人的な生産物から共同の生産物へ
手工業では、一人の職人が最初から最後まで商品を作ることがあります。
ところが、機械制大工業では、多数の労働者が工程を分担します。
例えば、自動車工場では次のような仕事があります。
部品を作る人
機械を操作する人
組み立てる人
設備を保守する人
品質を検査する人
生産工程を管理する人
完成した自動車は、特定の一人が作ったものではありません。多くの労働者が協力して作っ
た「共同の生産物」です。
そのため、生産的労働の範囲も、直接工具を動かす人だけではなく、共同労働を構成する労
働者全体へ広がります。
しかし同時に、資本主義のもとでは生産的労働者と認められる条件が厳しくなります。資本
に雇用され、その資本を増殖させることが求められるからです。
9.労働の生産力が「資本の力」に見える
多数の労働者が協力し、機械や科学を利用すれば、一人では実現できない大きな生産力が
生まれます。
本来、その力は社会的に結合した労働者の力です。
ところが、工場・機械・原材料などを資本家が所有しているため、共同労働による成果が
、あたかも資本そのものが生み出した成果のように見えます。
労働者の共同の力が、資本の生産力として現れる。
これは資本主義社会における重要な逆転現象です。
実際には人間が機械を作り、操作し、維持しています。しかし、表面的には「資本を投じた
から利益が生まれた」「機械が価値を生んだ」ように見えてしまいます。
マルクスは、剰余価値の源泉は機械ではなく、労働者の剰余労働にあると考えました。
10.自然条件と剰余価値の関係
人間の労働生産性は、自然条件にも左右されます。
土地の肥沃さ
気候
水資源
鉱物資源
動植物の豊かさ
地理的条件
自然条件が恵まれていれば、少ない労働時間で生活必需品を生産できる可能性があります。
その場合、必要労働時間を短くし、剰余労働の余地を広げることができます。
しかし、自然が剰余価値を直接生み出すわけではありません。
自然は、剰余労働が成立しやすくなる条件を提供するだけです。剰余価値そのものは、労働
者の労働によって生産されます。
また、自然条件が豊かだからといって、必ず資本主義が発展するわけでもありません。資
本主義の成立には、商品生産、市場、私有財産、賃金労働者の存在など、歴史的・社会的
な条件が必要です。
11.「自然が資本の利益を生む」という考えへの批判
資本家が利益を得る理由を、土地の豊かさや機械の性能だけで説明することはできません。
機械は、生産の途中で自分自身の価値を商品へ移すだけです。機械そのものが、その価値を
超える新しい価値を生み出すわけではありません。
新しい価値を生み出すのは、人間の労働力です。
自然や機械は、労働生産性を高める条件にはなります。しかし、その条件を使って労働者に
必要労働時間以上の労働をさせる社会関係がなければ、資本主義的な剰余価値は成立しません。
したがって、マルクスが問題にしているのは、単なる技術の仕組みではなく、資本家が生産手
段を所有し、労働者が自分の労働力を売らなければならないという社会関係なのです。
12.現代社会に置き換えて考える
絶対的剰余価値と相対的剰余価値の考え方は、現代の働き方にも当てはめられます。
絶対的剰余価値に近い例
長時間残業
休日出勤
サービス残業
休憩時間の短縮
副業を前提とする低賃金
勤務時間外の連絡や作業
相対的剰余価値に近い例
AIやロボットの導入
作業マニュアルの標準化
デジタル技術による効率化
同じ人数で生産量を増やす
成果目標を引き上げる
配送や接客の時間を細かく管理する
AIによって作業時間が半分になったとしても、労働者の勤務時間が半分になるとは限りませ
ん。空いた時間に別の仕事が追加されれば、労働はさらに密度の高いものになります。
ここに、技術進歩と労働時間短縮が自動的には結びつかない理由があります。
13.私たちの職場経験から考える
製造現場では、新しい機械や作業方法が導入されると、生産量が増える一方で、納期がさ
らに厳しくなることがあります。
「機械で仕事が楽になる」と期待していたのに、実際には次のような変化が起こる場合が
あります。
一人で担当する機械が増える
作業速度を上げるよう求められる
人員が削減される
故障対応や管理業務が増える
生産目標が引き上げられる
これは技術そのものが悪いからではありません。技術が誰のために、どのような目的で使
われるのかが問題なのです。
労働者の負担軽減や自由時間の拡大ではなく、剰余価値の増大を目的に技術が導入されれ
ば、生産性の向上が労働強化につながることがあります。
まとめ
第14章では、絶対的剰余価値と相対的剰余価値の違いと結びつきが明らかにされました。
絶対的剰余価値は、労働日を延長することで増やされます。相対的剰余価値は、生産力を
高め、必要労働時間を短縮することで増やされます。
資本主義が発展すると、資本は労働者を雇うだけでなく、分業・機械・科学技術を使っ
て生産方法そのものを変えていきます。
その結果、労働者の共同の力が資本の力として現れ、技術の進歩も資本を増殖させる手段
として利用されます。
この章が教えているのは、機械や技術を否定することではありません。
重要なのは、生産力の発展によって生まれた豊かさや自由時間を、誰が受け取るのかと
いう問題です。
今回のひとこと
技術が進歩して生産力が高まっても、その成果が労働者の自由時間になるとは限りません。
資本主義のもとでは、生産性の向上が剰余価値を増やす手段として利用されるからです。
理解度チェッククイズ
第1問
労働日を延長して増やされる剰余価値を何といいますか。
A.相対的剰余価値
B.絶対的剰余価値
C.使用価値
答え:B.絶対的剰余価値
労働者の必要労働時間を変えず、労働日全体を延長して剰余労働時間を増やす方法です。
第2問
相対的剰余価値を増やす基本的な方法はどれでしょうか。
A.商品の価格を自由に引き上げる
B.必要労働時間を短縮する
C.労働者の人数を必ず増やす
答え:B.必要労働時間を短縮する
生活必需品の生産力を高めて労働力の価値を引き下げることで、必要労働時間が短くなり
、剰余労働時間が相対的に増えます。
第3問
資本主義的な意味での「生産的労働」とは何でしょうか。
A.社会に役立つすべての労働
B.物を直接作る労働だけ
C.資本に剰余価値をもたらす労働
答え:C.資本に剰余価値をもたらす労働
ここでの「生産的」は、仕事が社会的に有益かどうかを評価する言葉ではなく、労働と資本
の関係を示す概念です。

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