📘『資本論』再学習 第62回
第1巻 第1冊「資本の生産過程」
第5篇 絶対的剰余価値と相対的剰余価値の生産
第15章 労働力の価格と剰余価値の大きさの変動
第3節 労働の生産力と強度が不変で、労働日が可変である場合
今回の重要ポイント
✅ 労働の生産力と強度が同じなら、1時間に生み出される価値量は変わらない
✅ 労働日が長くなるほど、1日に新しく生み出される価値総額は増える
✅ 労働日が短くなると、まず剰余労働時間と剰余価値が減少する
✅ 労働日が長くなると、必要労働時間が同じでも剰余労働時間が増える
✅ 賃金が少し上昇しても、それ以上に労働日が延長されれば搾取度は高くなる
✅ 過度の長時間労働は労働力を消耗させ、労働力の正常な再生産を困難にする
1.第3節で変化する条件
今回、マルクスは次の条件を設定しています。
| 条件 | 状態 |
|---|---|
| 労働の生産力 | 不変 |
| 労働の強度 | 不変 |
| 労働日の長さ | 変化する |
| 生活必需品の価値 | 基本的に不変 |
| 労働力の価値 | 基本的に不変 |
つまり、商品の生産方法や仕事の密度は変わらず、労働時間だけが長くなったり短くなったりする場合です。
2.必要労働と剰余労働
労働日は、次の二つに分かれます。
労働日=必要労働時間+剰余労働時間
必要労働時間
労働者が自分と家族の生活を維持するために必要な価値を生み出す時間です。
剰余労働時間
必要労働時間を超えて、資本家のために無償で価値を生み出す時間です。
この剰余労働によって生み出される価値が、剰余価値です。
3.基本となる数値例
最初の労働日を12時間とします。
- 必要労働時間:6時間
- 剰余労働時間:6時間
- 労働日:12時間
図式で表すと、次のようになります。
| 必要労働 | 剰余労働 |
|---|---|
| 6時間 | 6時間 |
剰余価値率は、次の式で計算します。
剰余価値率=必要労働時間剰余労働時間×100したがって、
6時間6時間×100=100%となります。
労働者が自分のために6時間働き、その後の6時間を資本家のために働いている状態です。
4.労働日が短縮された場合
労働日が12時間から10時間に短縮されたとします。
労働の生産力は変わらないため、生活に必要な価値を生み出すには、これまでどおり6時間必要です。
したがって、短縮される2時間は剰余労働時間から差し引かれます。
| 区分 | 12時間労働 | 10時間労働 |
|---|---|---|
| 必要労働時間 | 6時間 | 6時間 |
| 剰余労働時間 | 6時間 | 4時間 |
| 労働日 | 12時間 | 10時間 |
| 剰余価値率 | 100% | 約66.7% |
新しい剰余価値率は、
6時間4時間×100≒66.7%です。
ここで起きること
- 労働力の価値は変わらない
- 必要労働時間も変わらない
- 剰余労働時間が短くなる
- 剰余価値の絶対量が減る
- 剰余価値率も低下する
つまり、労働日短縮は、労働者の自由時間を増やすだけではありません。資本家が取得できる剰余価値を直接減少させるのです。
そのため、労働時間をめぐる問題は、資本家と労働者の重要な対立点になります。
5.資本家は賃金を下げようとする
労働日が短縮されると、資本家の剰余価値が減少します。
これを取り戻す方法の一つが、賃金を労働力の価値より低く抑えることです。
例えば、必要労働時間に相当する賃金を6時間分から5時間分に引き下げれば、10時間労働でも次のようになります。
| 必要労働に相当する賃金 | 資本家が取得する部分 |
|---|---|
| 5時間分 | 5時間分 |
しかし、これは労働力の価値そのものが下がったのではありません。
生活に本来必要な費用を十分に支払わず、労働者に生活水準の低下を押しつけているのです。
したがって、マルクスは、労働日短縮による剰余価値の減少を資本家が補うには、労働力の価格をその価値以下に引き下げるしかないと説明しています。
6.労働日が延長された場合
次に、労働日が12時間から14時間に延長された場合を考えます。
労働の生産力と生活必需品の価値は変わらないため、必要労働時間は6時間のままです。
延長された2時間は、すべて剰余労働時間になります。
| 区分 | 12時間労働 | 14時間労働 |
|---|---|---|
| 必要労働時間 | 6時間 | 6時間 |
| 剰余労働時間 | 6時間 | 8時間 |
| 労働日 | 12時間 | 14時間 |
| 剰余価値率 | 100% | 約133.3% |
新しい剰余価値率は、
6時間8時間×100≒133.3%となります。
ここで起きること
- 労働力の価値は変わらない
- 必要労働時間も変わらない
- 剰余労働時間が増える
- 剰余価値の絶対量が増える
- 剰余価値率も上昇する
これが、労働日の延長による絶対的剰余価値の増大です。
7.労働力の価値は「相対的」に低下する
14時間労働になっても、必要労働時間は6時間のままです。
必要労働時間の絶対量は変わっていません。しかし、労働日全体に占める割合は低下します。
12時間労働の場合
126=50%14時間労働の場合
146≒42.9%つまり、労働力の価値は絶対的には変わっていませんが、1日の新生産価値に占める割合
は小さくなります。
反対に、資本家が取得する剰余価値の割合は大きくなります。
8.賃金と剰余価値が同時に増える場合
第1節では、一定の価値総額を労働力の価値と剰余価値とに分けていたため、原則として、
一方が増えれば他方が減りました。
しかし、労働日が延長される場合は、1日に新しく生み出される価値総額そのものが増
えます。
そのため、次のようなことが可能になります。
- 労働者の賃金が増える
- 資本家の剰余価値も増える
- それでも搾取度は上昇する
例
12時間労働のとき、
- 賃金:3,000円
- 剰余価値:3,000円
- 新生産価値:6,000円
労働日を14時間に延長し、賃金を3,500円にしたとします。
- 賃金:3,500円
- 剰余価値:3,500円
- 新生産価値:7,000円
賃金は500円増えていますが、労働時間は2時間増えています。
そのため、
「賃金が上がったから、労働者の状態が必ず改善した」
とはいえません。
賃金額だけでなく、労働時間、労働力の消耗、剰余価値率を一緒に見る必要があります。
9.名目賃金が上がっても、労働力の価格は実質的に低下
する
労働日が長くなれば、労働者の体力や精神はより強く消耗します。
その分、次のような費用が増える可能性があります。
- 食費
- 医療費
- 休養に必要な費用
- 通勤や衣服の費用
- 家事や育児を補う費用
- 労働力を回復させるための費用
したがって、労働日が延長されれば、労働力を正常に再生産するために必要な価値も増える可能性があります。
例えば、賃金が1万円から1万1,000円に上がっても、極端な長時間労働によって労働者
の消耗がそれ以上に増えれば、その賃上げは十分な補償になりません。
この場合、名目賃金は上昇していても、労働力の価格は実質的にその価値以下に下
がっていると考えられます。
10.労働力の消耗は一定の割合では増えない
マルクスが特に重視しているのは、長時間労働による消耗が単純な比例では増えないことです。
例えば、労働時間が8時間から9時間になった場合と、12時間から13時間になった場合とでは、同じ1時間の延長でも身体に与える影響は同じではありません。
すでに疲労が蓄積している状態では、最後の1時間が身体に与える負担はより大きくなります。
マルクスは、ある限度を超えると労働力の消耗が急激に進み、正常な生活と労働力の
再生産条件が損なわれると指摘しています。
- 睡眠時間が減る
- 病気やけがが増える
- 家族生活が壊れる
- 学習や文化活動の時間がなくなる
- 労働できる年数が短くなる
- 次世代の労働力の養育にも影響する
この段階では、賃金と搾取度を単純な金額だけで比較することが難しくなります。
11.第3節から導かれる二つの法則
第1の法則
労働日が長くなれば、それに比例して1日の新生産価値は増え、短くなれば減少する。
労働の強度が一定なら、1時間当たりに生み出される価値量は一定です。
したがって、
1日の新生産価値=1時間当たりの新生産価値×労働時間となります。
第2の法則
労働力の価値と剰余価値との割合の変化は、剰余労働時間の絶対的な変化から生じる。
必要労働時間を6時間とすれば、
- 労働日短縮 → 剰余労働が減る
- 労働日延長 → 剰余労働が増える
この点が、生産力の変化によって必要労働時間そのものが変わる第1節との大きな違いです。
12.第1節・第2節・第3節の違い
| 節 | 変化する条件 | 価値増大の中心 |
|---|---|---|
| 第1節 | 労働の生産力 | 必要労働時間の短縮 |
| 第2節 | 労働の強度 | 同じ時間内の労働量の増加 |
| 第3節 | 労働日の長さ | 剰余労働時間の延長 |
第1節
生産力が上昇すると生活必需品が安くなり、労働力の価値が低下します。必要労働時
間が短縮され、その分、剰余労働時間が増えます。
第2節
労働強度が高まると、同じ1時間でもより多くの労働が支出されます。そのため、労働
日が同じでも生み出される価値が増えます。
第3節
生産力と強度は変わらず、労働時間だけが延長されます。必要労働時間は同じなので
、延長分が剰余労働になります。
13.現代社会に当てはめると
第3節の論理は、現代の働き方にも当てはまります。
サービス残業
賃金を増やさず労働時間を延長すれば、延長部分は資本側の剰余価値を増やします。
固定残業代
固定残業代が支給されても、実際の残業時間が長すぎれば、追加された賃金が労働力
の消耗を十分に補償しているとは限りません。
副業・兼業
複数の職場で働く場合でも、労働者にとっての総労働時間が長くなれば、休養や家庭
生活の時間が減ります。
過労死・長時間労働
極端な長時間労働は、労働力を日々再生産するどころか、その生命や健康そのものを
破壊します。
労働時間規制は、単なる会社運営上の決まりではなく、労働者の生命と生活を守るた
めの社会的な防壁なのです。
まとめ
第3節でマルクスが明らかにしたのは、労働日の長さが剰余価値の大きさを直接左右す
るということです。
労働の生産力と強度が変わらない場合、必要労働時間も基本的に変わりません。
そのため、
労働日が短くなれば、剰余労働と剰余価値が減少する。
反対に、
労働日が長くなれば、延長された時間が剰余労働となり、剰余価値が増大する。
労働日延長によって賃金が少し上がる場合でも、それだけで労働者の状態が改善した
とは判断できません。
重要なのは、賃金額だけでなく、
- 何時間働いたのか
- 剰余労働はどれだけ増えたのか
- 労働力の消耗はどれほど進んだのか
- 健康で文化的な生活を再生産できるのか
を総合的に見ることです。
第3節は、労働時間をめぐる闘争が、剰余価値をめぐる資本家と労働者の根本的な対立
であることを示しています。

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