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2026年8月23日日曜日

 📘『資本論』再学習 第68回 第1巻 第1冊「資本の生産過程」 第6篇「労働賃金」第20章労働賃金の国民的差異について解説

 



📘『資本論』再学習 第68回

第1巻 第1冊「資本の生産過程」

第6篇「労働賃金」第20章「労働賃金の国民的差異」


はじめに――なぜ国によって賃金が違うのか

同じような仕事をしていても、国によって賃金額は大きく異なります。

たとえば、ある国の労働者が1日1万円を受け取り、別の国の労働者が1日5,000円を受け取ってい

るとします。この数字だけを見ると、前者の労働者のほうが豊かで、労働力も高く評価されてい

るように思えます。

しかしマルクスは、第20章で次のことを明らかにします。

各国の賃金を比べるとき、通貨で表された賃金額だけを比較しても、労働者の本当の生活状

態や搾取の程度は分からない。

国ごとに、生活費、労働時間、労働の強度、生産力、労働力の再生産に必要な費用などが異なる

からです。


1.賃金の国際比較は単純ではない

各国の賃金を比較するためには、少なくとも次の条件を考える必要があります。

  • 労働力を維持・再生産するための生活費

  • 食料・住宅・衣服などの物価

  • 1日の労働時間

  • 労働の強度

  • 労働生産性

  • 労働者が身につける技能や教育

  • 歴史的・社会的に形成された生活水準

  • 家族を養うために必要な費用

  • 女性や子どもを含む家族全体の就業状況

賃金額が高い国であっても、物価や家賃が非常に高ければ、実際に購入できる生活手段はそれ

ほど多くない場合があります。

反対に、賃金額が低くても物価が低ければ、一定の生活を維持できる可能性があります。

したがって、単純な金額の比較では不十分なのです。


2.労働力の価値には国民的な違いがある

労働力の価値は、労働者が働き続け、家族を養い、次の世代の労働者を育てるために必要な生

活手段の価値によって決まります。

しかし、「必要な生活手段」の内容は、すべての国で同じではありません。

自然的な条件

  • 気候

  • 食生活

  • 住居条件

  • 必要な衣服

  • 移動に必要な費用

歴史的・社会的な条件

  • その国で一般的とされる生活水準

  • 教育・訓練に必要な費用

  • 文化的な生活に必要な費用

  • 労働者運動や労使関係の歴史

  • 社会保障や公共サービスの水準

寒冷地では暖房費や防寒着が必要です。高度な技能を必要とする産業では、教育や訓練にも費

用がかかります。

このように、労働力の価値には、自然的要素だけでなく、歴史的・道徳的な要素も含まれてい

ます。


3.名目賃金と実質賃金を区別する

国際比較で特に重要なのが、名目賃金と実質賃金の違いです。

名目賃金

貨幣の額で表された賃金です。

例:日給1万円、月給30万円など。

実質賃金

受け取った賃金によって、実際にどれだけの商品やサービスを購入できるかを示します。

簡単に表すと、

実質賃金=物価水準名目賃金​

となります。

月給が上がっても、食料品、電気代、家賃などがそれ以上に値上がりすれば、実質賃金は

低下します。

したがって、ある国の名目賃金が高くても、それだけで労働者が豊かだとは判断できません。


4.労働時間の長さも比較しなければならない

月給が同じでも、労働時間が違えば、1時間当たりの賃金は異なります。

たとえば、月給が同じ30万円でも、

  • A国では月150時間

  • B国では月250時間

働いているとすれば、B国の労働者の時間当たり賃金は低くなります。

時間賃金=総労働時間賃金総額​

ただし、時間だけではまだ十分ではありません。次に、労働の強度を考える必要があります。


5.労働の強度には国民的差異がある

労働の強度とは、一定時間内にどれほど集中的に労働するかということです。

同じ8時間労働でも、

  • 作業速度が速い

  • 休憩時間が短い

  • 同時に複数の仕事を担当する

  • 厳しい生産目標が設定される

  • 機械の速度に合わせ続ける

という職場では、より多くの労働力が支出されます。

マルクスは、世界市場においては、各国の労働強度の平均が異なると考えました。国内では

「平均的」とされる労働でも、国際的に見れば、より強度の高い労働として評価される場合が

あります。

つまり、労働時間が同じでも、実際に支出される労働量は同じとは限りません。


6.生産力が高い国では賃金も高く見える

労働生産性とは、一定時間内にどれだけ多くの商品を生産できるかを示すものです。

機械化や技術革新が進んだ国では、同じ時間でも多くの商品を生産できます。そのため、資本家

は労働者に比較的高い賃金を支払っても、十分な剰余価値を得られる可能性があります。

たとえば、労働者が1日に生み出す価値を単純化すると、次のように表せます。

国

1日に生み出す価値

賃金

資本家に残る剰余価値

A国

5万円

2万円

3万円

B国

2万円

1万円

1万円

A国の賃金はB国の2倍です。しかし、資本家が取得する剰余価値はA国のほうが大きくなって

います。

したがって、賃金が高いことと、搾取されていないことは同じではありません。

高賃金国でも、生産性や労働強度が高ければ、資本家が得る剰余価値は大きくなり得ます。


7.「賃金が高い国ほど労働が安い」という逆説

ここが第20章の重要なポイントです。

発達した資本主義国では、労働者が受け取る日賃金や週賃金が高い場合があります。しかし同

時に、生産力と労働強度も高くなっています。

その結果、商品1単位を生産するために必要な労働時間が短くなります。

たとえば、同じ商品を作る場合、

  • A国では1時間で10個

  • B国では1時間で2個

生産できるとします。

A国の時間賃金がB国より高くても、商品1個当たりの賃金費用はA国のほうが低くなることがあ

ります。

商品1個当たりの賃金費用=1時間当たりの生産量時間賃金​

この意味で、

労働者の賃金は高くても、資本にとっての労働費用は安い

という、一見矛盾した状態が生まれます。


8.貨幣賃金の高さと生活の豊かさは一致しない

貨幣賃金が高くても、次のような支出が大きければ、労働者の生活には余裕が生まれません。

  • 家賃

  • 医療費

  • 教育費

  • 交通費

  • 光熱費

  • 保険料

  • 税金

  • 老後に備えるための費用

一方、公共住宅、医療、教育、公共交通などが社会的に保障されていれば、賃金額が多少低く

ても、生活の安定性が高くなる場合があります。

現代の国際比較では、賃金額だけでなく、社会保障や公共サービスも含めて考える必要があり

ます。


9.相対的賃金にも注目する

労働者の状態を考えるときには、自分がいくら受け取るかだけでなく、労働者と資本家の取り

分の関係も重要です。

たとえば、労働者の賃金が20%増えても、その間に企業利益が100%増えたとします。

労働者の生活は多少改善するかもしれません。しかし、生み出された価値に占める労働者の取

り分は低下する可能性があります。

これが相対的賃金の問題です。

相対的賃金=労働者が生み出した価値労働者の賃金​

絶対的な賃金が増えても、資本との格差や従属関係が拡大することがあるのです。


10.世界市場では各国の労働者が競争させられる

資本は、より低い費用で商品を生産できる地域を求めます。

その結果、企業は、

  • 生産拠点の海外移転

  • 低賃金国への発注

  • 国際的な下請け制度

  • 外国人労働者の利用

  • 非正規雇用や業務委託の拡大

などを進めます。

各国の労働者は、自分の意思とは無関係に世界市場の中で比較され、競争させられます。

ただし、「低賃金国なら必ず有利」とは限りません。労働生産性、輸送費、品質、技術力、イン

フラなども生産費に影響します。

資本が見るのは、賃金額だけではなく、商品1単位を生産するための総費用なのです。


11.現代日本から考える

第20章の考え方は、現在の日本にも応用できます。

日本では名目賃金が上昇しても、物価上昇がそれを上回れば、実質賃金は低下します。また、

給与が同じでも、仕事量の増加や人員削減によって労働強度が高まれば、労働者の負担は重くな

ります。

国際比較でも、単純な平均年収だけでなく、次の点を見る必要があります。

  • 物価を考慮した実質賃金

  • 労働時間

  • サービス残業の有無

  • 有給休暇の取得状況

  • 仕事の密度と精神的負担

  • 労働生産性

  • 社会保険料や税負担

  • 医療・教育・住宅の自己負担

  • 企業利益と労働分配率

マルクスの分析は、「どの国の給料が高いか」という表面的な比較から、「労働者が生み出した

価値がどのように分配されているか」という本質的な問題へ目を向けさせます。


12.第20章で注意したいこと

この章は、「高賃金国の労働者は必ず不幸である」と主張しているわけではありません。

また、「低賃金国でも物価が安ければ問題はない」という意味でもありません。

重要なのは、賃金を一つの数字だけで判断しないことです。

賃金を正しく理解するには、

  1. いくら受け取るのか

  2. その賃金で何を買えるのか

  3. 何時間働くのか

  4. どの程度の強度で働くのか

  5. どれだけの価値を生み出すのか

  6. その価値を資本と労働がどう分けるのか

を総合的に見る必要があります。


今回の重要ポイント

✅ 国ごとの賃金額だけを比べても、労働者の生活状態は分からない

✅ 労働力の価値は、物価、生活習慣、教育、技能、歴史的な生活水準などによって異なる

✅ 名目賃金が高くても、物価が高ければ実質賃金は低くなる場合がある

✅ 労働時間だけでなく、労働の強度も比較する必要がある

✅ 生産力の高い国では、賃金が高くても商品1個当たりの賃金費用は低くなり得る

✅ 高賃金国でも、労働者から生み出される剰余価値が大きい場合がある

✅ 絶対的な賃金が上昇しても、資本に対する労働者の相対的な取り分が低下することがある

✅ 世界市場では、各国の労働者が賃金・生産性・労働強度を通じて競争させられる


まとめ

第20章「労働賃金の国民的差異」でマルクスが示したのは、賃金の国際比較には多くの条件が隠

されているということです。

高い賃金=豊かな生活=搾取が少ない、とは限りません。

賃金が高い国でも、生産性や労働強度が高ければ、資本家はより多くの剰余価値を得られます。

一方、賃金額が低い国では、生活費の安さを考慮しても、労働力の価値を下回る賃金が支払われ

ている可能性があります。

大切なのは、通貨で表された金額の背後にある、生活費、労働時間、労働強度、生産力、そして

生み出された価値の分配関係を見ることです。

第20章は、労働賃金を国際的な視点から分析するとともに、世界市場の中で労働者がどのよう

に比較され、競争させられるのかを明らかにした章だといえるでしょう。

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