📘『資本論』再学習 第64回
第1巻 第1冊「資本の生産過程」
第5篇 絶対的剰余価値と相対的剰余価値の生産
第16章 剰余価値率を表す種々の定式
今回の重要ポイント
✅ 剰余価値率は、資本家による労働力の搾取の程度を示す
✅ 基本の定式は「剰余価値÷可変資本」である
✅ 労働時間で表せば「剰余労働÷必要労働」となる
✅ 「剰余価値÷生み出された総価値」は、剰余価値率そのものではない
✅ 剰余価値の源泉は、労働者の「不払労働」にある
✅ 賃金は、労働者のすべての労働に対して支払われたように見せる
1.第16章では何を明らかにするのか
第16章でマルクスは、これまで説明してきた剰余価値率について、いくつかの異なる表し方を整理しています。
同じ剰余価値を扱っていても、分母に何を置くかによって、定式の意味は大きく変わります。
特に重要なのは、次の違いです。
- 資本家が前貸しした可変資本と剰余価値を比べる
- 労働者が生み出した総価値のなかで剰余価値の割合を見る
- 必要労働と剰余労働を比べる
- 支払労働と不払労働を比べる
マルクスは、どの定式が資本主義的搾取の程度を正確に表しているのかを明らかにします。
2.剰余価値率の基本定式
剰余価値率の基本的な定式は、次のとおりです。
剰余価値率=可変資本剰余価値記号では、
m′=vmと表されます。
- m′:剰余価値率
- m:剰余価値
- v:可変資本
可変資本とは、資本家が労働力を購入するために前貸しする資本、つまり賃金に支出する資本です。
具体例
資本家が労働者に1日6,000円の賃金を支払い、その労働者が1日に12,000円の新しい価値を生み出したとします。
この場合、
- 労働力の価値=6,000円
- 労働者が生み出した新価値=12,000円
- 剰余価値=6,000円
となります。
したがって、剰余価値率は、
6,000円6,000円=100%です。
これは、資本家が賃金として支払った価値と同じ大きさの剰余価値を取得したことを意味します。
3.労働時間で表した剰余価値率
剰余価値率は、価値額だけでなく労働時間でも表せます。
剰余価値率=必要労働時間剰余労働時間これは、次の定式と同じ内容です。
可変資本剰余価値=必要労働剰余労働なぜなら、可変資本に相当する価値は必要労働時間によって再生産され、剰余価値は剰余労働時間によって生み出されるからです。
8時間労働の場合
1日の労働時間が8時間で、次のように分かれているとします。
- 必要労働時間=4時間
- 剰余労働時間=4時間
この場合、
4時間4時間=100%となります。
労働者は最初の4時間で、自分の賃金に相当する価値を生み出します。しかし、そこで仕事を終えることはできません。残りの4時間は、資本家のために無償で働くことになります。
4.必要労働と剰余労働
労働者の1日の労働は、二つの部分に分かれます。
必要労働
労働者が、自分の労働力の価値、つまり生活に必要な賃金相当額を再生産する労働です。
たとえば、労働者とその家族が生活し、翌日も働くために必要な生活手段の価値を、4時間で生み出すとします。この4時間が必要労働時間です。
剰余労働
必要労働を超えて、労働者が資本家のために行う労働です。
この時間に生み出された価値は、労働者には賃金として支払われず、資本家によって剰余価値として取得されます。
したがって、
労働日=必要労働時間+剰余労働時間となります。
5.第1の定式――搾取度を正確に表す
マルクスが最も基本的な定式として示すのは、次の関係です。
可変資本剰余価値=必要労働剰余労働この定式は、資本家と労働者の関係を正確に表しています。
なぜなら、労働者が自分のために働く時間と、資本家のために無償で働く時間とを直接比較しているからです。
たとえば、
- 必要労働=4時間
- 剰余労働=4時間
ならば、剰余価値率は100%です。
しかし、
- 必要労働=3時間
- 剰余労働=6時間
ならば、
3時間6時間=200%となります。
剰余価値率は100%を超えることがあります。労働者の必要労働時間よりも剰余労働時間のほうが長ければ、100%を超えるのは当然です。
6.第2の定式――労働日全体に占める割合
剰余価値を、労働者が生み出した新価値全体と比較する定式もあります。
新たに生み出された総価値剰余価値労働時間で表せば、
労働日全体剰余労働となります。
また、剰余生産物と生産物全体の関係として、
総生産物剰余生産物と表すこともできます。
これらは同じ割合を別の面から示したものです。
具体例
必要労働が4時間、剰余労働が4時間なら、労働日全体は8時間です。
労働日8時間剰余労働4時間=50%この50%は、剰余価値率ではありません。
本来の剰余価値率は、
必要労働4時間剰余労働4時間=100%です。
つまり、同じ労働関係でも、
- 剰余価値率=100%
- 労働日全体に占める剰余労働の割合=50%
となります。
7.なぜ第2の定式では搾取度が見えにくくなるのか
「剰余労働÷労働日全体」という定式は、労働日のなかで剰余労働が占める構成割合を示します。
しかし、必要労働と剰余労働を直接比較していません。そのため、資本家が労働者からどれだけの不払労働を取得しているのかが見えにくくなります。
さらに、この定式では、剰余労働は労働日全体の一部分なので、その割合は100%を超えません。
一方、本来の剰余価値率は、
必要労働剰余労働なので、100%、200%、300%になることもあります。
したがって、「剰余価値が総価値の何%を占めるか」という数字だけでは、搾取の程度を正確には表せません。
8.第3の定式――支払労働と不払労働
剰余価値率は、さらに次のように表せます。
支払労働不払労働これは、
必要労働剰余労働と同じ内容を持っています。
- 必要労働=支払労働
- 剰余労働=不払労働
という対応関係があるからです。
したがって、
可変資本剰余価値=必要労働剰余労働=支払労働不払労働となります。
この最後の表現は、資本主義的生産の本質を非常に分かりやすく示します。
9.「支払労働」という表現で注意すること
「支払労働」という言葉だけを見ると、労働者が行った必要労働に対して直接代金が支払われているように思えます。
しかし、厳密には、資本家が購入するのは「労働」ではなく「労働力」です。
労働者は、自分の労働能力を一定期間、資本家に売ります。資本家は、その労働力の価値を賃金として支払います。
労働力には、自分自身の価値よりも大きな価値を生み出せるという特殊な性質があります。
たとえば、労働力の1日分の価値が4時間の労働で再生産できても、資本家はその労働力を8時間使用できます。
その結果、
- 最初の4時間=労働力の価値を再生産する
- 残りの4時間=資本家の剰余価値を生み出す
という関係が成立します。
10.賃金が搾取関係を見えにくくする
奴隷制では、奴隷が主人のために働いていることが目に見える形で現れます。
農奴制でも、農民が自分の畑で働く日と、領主の土地で働く日が分かれている場合、必要労働と剰余労働の区別は比較的分かりやすいものです。
しかし、賃金労働では、労働者は1日分の「労働の代金」を受け取ったように見えます。
そのため、8時間すべての労働に賃金が支払われたかのような外観が生まれます。
実際には、賃金は労働日全体の労働に対する支払いではなく、労働力の価値に対する支払いです。この違いによって、剰余労働が隠されます。
11.剰余価値は不等価交換から生まれるのではない
マルクスが強調しているのは、剰余価値が単なる「だまし」や「安く買って高く売ること」から生まれるのではないという点です。
資本家は、原則として労働力をその価値どおりに購入します。それでも剰余価値を得ることができます。
なぜなら、労働力という商品は、その価値を上回る価値を生み出す能力を持っているからです。
つまり、
- 資本家は労働力を価値どおりに購入する
- 労働者は必要労働によって労働力の価値を再生産する
- その後も労働を続ける
- 剰余労働によって剰余価値が生み出される
- 剰余価値を資本家が取得する
という仕組みです。
したがって、資本主義的搾取は、商品の等価交換という法則を破ることなく成立します。
12.定式の違いを比較する
必要労働4時間、剰余労働4時間、労働日8時間を例に比較してみましょう。
| 定式 | 計算 | 結果 | 表しているもの |
|---|---|---|---|
| 剰余価値÷可変資本 | 4÷4 | 100% | 資本による労働力の搾取度 |
| 剰余労働÷必要労働 | 4÷4 | 100% | 労働時間で見た搾取度 |
| 不払労働÷支払労働 | 4÷4 | 100% | 無償で取得された労働の割合 |
| 剰余労働÷労働日全体 | 4÷8 | 50% | 労働日全体に占める剰余労働 |
| 剰余価値÷新価値全体 | 4÷8 | 50% | 新価値全体に占める剰余価値 |
大切なのは、50%と100%のどちらが正しいかという問題ではありません。
両方とも計算自体は正しいのですが、表している内容が違います。搾取度を示す場合には、「剰余労働÷必要労働」を使わなければなりません。
13.剰余価値率と利潤率は違う
剰余価値率は、利潤率とも区別する必要があります。
剰余価値率は、
可変資本剰余価値です。
一方、利潤率は基本的に、
不変資本+可変資本剰余価値として表されます。
剰余価値を生み出すのは労働力、つまり可変資本ですが、利潤率では機械・建物・原材料などの不変資本も分母に含まれます。
そのため、利潤率は剰余価値率より低く表れるのが一般的です。
たとえば、
- 不変資本=80万円
- 可変資本=20万円
- 剰余価値=20万円
ならば、剰余価値率は、
20万円20万円=100%です。
一方、利潤率は、
80万円+20万円20万円=20%です。
利潤率だけを見ると、労働者から取得された剰余労働の大きさが見えにくくなります。
14.現代社会に置き換えて考える
現代では、労働時間の延長だけでなく、仕事の密度を高めることによっても剰余労働が増やされます。
たとえば、
- 人員を減らして一人当たりの仕事を増やす
- デジタル機器で作業を細かく管理する
- 休憩時間を取りにくくする
- 成果目標を引き上げる
- サービス残業を発生させる
- 自宅での連絡対応を事実上義務化する
- AIや自動化による生産性向上の成果を賃金に反映しない
といった形です。
表面上の労働時間が変わらなくても、労働強度が高まれば、同じ時間内により多くの労働が支出されます。
また、生産性が上がって生活必需品の価値が下がれば、労働力の価値を再生産するための必要労働時間が短くなる可能性があります。その一方で労働日が変わらなければ、剰余労働時間が長くなります。
15.第15章とのつながり
前回の第15章では、次の三つの要素が変化した場合、労働力の価格と剰余価値がどのように変わるかを学びました。
- 労働日の長さ
- 労働の生産力
- 労働の強度
第16章では、その結果として生み出される剰余価値の割合を、どのような定式で表すべきかが整理されています。
つまり、第15章が「剰余価値の大きさがどう変動するのか」を扱ったのに対し、第16章は「その剰余価値の関係をどう正確に表すのか」を扱っていると理解できます。
16.第16章の中心的な結論
第16章で最も重要なのは、次の三つの定式が同じ本質を示していることです。
可変資本剰余価値=必要労働剰余労働=支払労働不払労働この定式は、剰余価値の源泉が労働者の不払労働であることを明らかにします。
資本家は労働者に賃金を支払っています。しかし、その賃金は労働者が生み出した価値のすべてに対する支払いではありません。
労働者は賃金相当分を超えて働き、その超過部分が剰余価値として資本家に取得されます。
まとめ
第16章では、剰余価値率を表す複数の定式が検討されています。
基本となるのは、
剰余価値率=可変資本剰余価値です。
これは労働時間では、
必要労働剰余労働社会的な内容を明確に表せば、
支払労働不払労働となります。
一方、
労働日全体剰余労働という定式は、労働日全体に占める剰余労働の割合を示すだけであり、搾取度を直接表すものではありません。
第16章は、単なる数式の説明ではありません。賃金によって隠されている「支払われる労働」と「支払われない労働」の関係を明らかにする章です。
資本主義のもとでは、労働者のすべての労働に賃金が支払われているように見えます。しかし、マルクスは剰余価値率の正確な定式を通して、資本の増殖を支えているのが労働者の不払労働であることを示したのです。

0 件のコメント:
コメントを投稿