📘『資本論』再学習 第66回
第1巻 第1冊「資本の生産過程」
第6篇「労働賃金」第18章「時間賃金」
第17章では、マルクスは**「労働力の価値・価格が、なぜ賃金という形で現れるのか」**を説明しました。
第18章「時間賃金」では、そこから一歩進んで、
労働者が「時間」を基準にして賃金を受け取る仕組みは、どのようなものなのか?
を分析します。
1.時間賃金とは何か?
時間賃金とは、簡単にいえば、
働いた時間に応じて賃金が決まる方式
です。
たとえば、
- 1時間=1,500円
- 1日8時間=12,000円
- 1週間5日=60,000円
というような仕組みです。
現代でも、
時給 × 労働時間 = 賃金
という形は非常に身近ですね。
しかし、マルクスは単純に「時間給は便利な賃金制度だ」と考えるのではありません。
ここに資本家と労働者の関係を隠す仕組みがあると考えます。
2.「1時間いくら」と「1日の賃金」は違う
ここが第18章の重要ポイントです。
仮に、
1時間=1,000円
だとします。
8時間働けば、
1,000円 × 8時間=8,000円
です。
しかしマルクスが注目するのは、
「1時間=1,000円」という数字が、労働者にとって何を意味しているのか?
ということです。
労働者は「自分の労働そのものを売っている」ように見えます。
しかし、厳密にはそうではありません。
労働者が資本家に売っているのは、
労働する能力=労働力
です。
3.「労働力の価値」が「時間賃金」に変わる
ここまでの復習をすると理解しやすくなります。
労働者は資本家に労働力を売ります。
たとえば、労働力の1日の価値が、
8,000円
だったとしましょう。
そして労働時間が8時間なら、
8,000円 ÷ 8時間=1時間1,000円
となります。
つまり、
時間賃金は、労働力の価値を労働時間によって分割して表示したもの
と考えることができます。
ここが非常に重要です。
4.しかし「1時間1,000円」だけでは実態が分からない
たとえば、
「時給1,000円」
と聞くと、労働者は、
「1時間働けば1,000円の価値を生み出している」
と思いやすいでしょう。
しかし、マルクスはそうではないと考えます。
労働者が1時間の中で生み出す価値と、労働者が1時間について受け取る賃金は、同じものではありません。
ここで必要労働時間と剰余労働時間が重要になります。
5.必要労働時間と剰余労働時間
たとえば、8時間労働だとします。
仮に、
- 必要労働時間=4時間
- 剰余労働時間=4時間
だったとしましょう。
すると、
4時間+4時間=8時間
です。
イメージすると、
| 労働時間 | 内容 |
|---|---|
| 4時間 | 労働力の価値に相当する価値を生み出す |
| 4時間 | 資本家のための剰余価値を生み出す |
| 合計8時間 | 労働日の全体 |
となります。
ところが労働者には、
「8時間働いたから8時間分の賃金」
という形で賃金が支払われます。
そのため、
必要労働と剰余労働の区別が、賃金の表面では見えにくくなる
のです。
6.ここに「資本主義的な賃金の秘密」がある
これが第18章を理解するうえで、とても重要なところです。
労働者から見ると、
「8時間働いて、その8時間分の賃金をもらった」
ように見えます。
しかし資本家から見ると、
「労働力を購入し、それを8時間使用している」
という関係です。
そして、その8時間の中には、
労働力の価値を再生産するために必要な労働時間
だけでなく、
資本家のために剰余価値を生み出す時間
も含まれています。
7.時間賃金は「労働の価格」に見える
ここがマルクスの批判の核心です。
本当は、
労働力の価値 → 賃金
なのですが、
表面上は、
労働した時間 → その時間の価格
に見えます。
つまり、
本質
労働力を売る
↓
表面
労働を売って、その時間に対して賃金を受け取る
という形になります。
この「見かけ」が、資本主義の賃金関係を分かりにくくします。
8.さらに重要なのが「労働時間の延長」
時間賃金では、もう一つ重要な問題があります。
仮に、
1時間=1,000円
なら、
8時間働けば8,000円。
10時間働けば10,000円。
12時間働けば12,000円。
となります。
すると資本家にとっては、
労働時間を延長すれば、その分だけ労働者に支払う賃金も増える
ことになります。
しかし、それだけではありません。
労働時間が延びれば、条件によっては剰余労働時間も増加する可能性があります。
したがって、
時間賃金は労働時間の延長と結びつきやすい
という問題が出てきます。
9.「時給が高い=必ず良い」とは限らない
ここも現代にもつながる面白いところです。
たとえば、
Aさん
時給1,500円
8時間労働
→ 12,000円
Bさん
時給1,800円
12時間労働
→ 21,600円
Bさんのほうが1日の賃金は高いですね。
しかし、
労働時間そのものが長い
という問題があります。
マルクスが見ているのは、
「いくらもらったか」だけではなく、その賃金を得るために、どれだけの時間を労働したのか
という点なのです。
10.時間賃金と「労働日の長さ」
第18章では、時間賃金によって、
労働日の長さと賃金額が直接結びつく
ことも重要です。
たとえば、
時給1,200円
なら、
8時間 → 9,600円
10時間 → 12,000円
12時間 → 14,400円
となります。
このため、労働者の賃金額を維持するために、長時間労働が必要になる場合もあります。
つまり、
時間賃金は、労働時間を「賃金の単位」に変える仕組み
ともいえます。
11.「低い時給」の危険性
マルクスが注目するもう一つの問題は、
時間賃金率を低く設定すること
です。
たとえば労働者が生活するために、
1日12,000円
必要だとします。
ところが時給が、
1,000円
なら、
12時間働かなければ12,000円になりません。
つまり、
賃金率が低い
↓
必要な収入を得るため労働時間を延ばす
↓
長時間労働
という関係が生まれます。
ここに時間賃金制度の問題があります。
12.第18章の重要な考え方
第18章を一言でまとめるなら、
時間賃金は、労働力の価値を「労働時間あたりの価格」という形で表したものである。
ということです。
そして、その表面的な形によって、
必要労働と剰余労働の関係が見えにくくなる
という点が重要です。
🧠 第18章を図式で理解する
労働力の売買
労働者
↓
労働力を販売
↓
資本家
↓
労働力を一定時間使用
↓
労働
その労働時間の中に、
必要労働時間 + 剰余労働時間
があります。
しかし賃金の表面では、
「1時間働けば○○円」
としか見えません。
ここに、
「労働力の価値」と「労働そのものの価値」の混同
が生じます。
📌 第17章から第18章への流れ
ここは再学習では特に大切です。
第17章
労働力の価値または価格の労働賃金への転化
↓
「なぜ労働力の価値が賃金という形で現れるのか?」
↓
第18章
時間賃金
↓
「その賃金が、時間を基準にしてどのように表示されるのか?」
↓
次の理解
賃金の形態によって、資本による労働者の搾取関係がどのように隠されるのか
という問題へ進んでいきます。
✍️ 今回の重要語句5つ
① 時間賃金
働いた時間を基準として支払われる賃金。
② 賃金率
一定の労働時間あたりの賃金。現代でいう「時給」に近いもの。
③ 労働力の価値
労働者が労働力を再生産するために必要な生活手段の価値。
④ 必要労働時間
労働力の価値に相当する価値を生み出すために必要な労働時間。
⑤ 剰余労働時間
労働者が自分の労働力の価値を超えて価値を生み出す時間。ここから剰余価値が生まれます。
🎯 第66回の核心
一番覚えておきたいのは、この一文です。
時間賃金は、「労働力の価値」を「労働時間あたりの賃金」という形で表すため、必要労働と剰余労働の関係を見えにくくする。
つまりマルクスは、単に「時給」という賃金制度を説明しているのではありません。
「なぜ労働者は、自分が生み出した価値と受け取る賃金の関係を、そのままでは理解しにくいのか」
という、資本主義の賃金関係の見かけと本質の違いを分析しているのです。
🌱 第66回を一言で
「時給」という分かりやすい形の裏側に、必要労働と剰余労働の関係が隠れている。
ここを押さえておけば、第19章の**「出来高賃金」**へ進んだときにも、かなり理解しやすくなります。

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