📘『資本論』再学習 第60回
第1巻 第1冊「資本の生産過程」
第5篇 絶対的剰余価値と相対的剰余価値の生産
第15章 労働力の価格と剰余価値の大きさの変動
第1節 労働日の大きさと労働の強度が不変で、労働の生産力が可変である場合
今回の重要ポイント
✅ 労働日と労働の強度が同じなら、1日に新しく生み出される価値総額は変わらない
✅ 生産力が上昇すると、生活必需品が安くなり、労働力の価値が低下する
✅ 労働力の価値が低下すると、必要労働時間が短くなる
✅ その分だけ剰余労働時間が長くなり、剰余価値が増加する
✅ 生産力の上昇が剰余価値を増やすのは、労働力の価値を引き下げる場合である
✅ 労働力の価値と剰余価値は、一方が減れば他方が増える関係にある
1.この節でマルクスが検討する条件
第15章では、次の三つの要因が、労働力の価値と剰余価値をどのように変化させるかを分析します。
労働日の長さ
労働の強度
労働の生産力
第1節では、次の条件を設定します。
ここでいう「労働の強度」とは、一定時間内にどれほど集中して労働するかということです。
つまり、この節では、労働者が働く時間や仕事の密度は変えず、技術や機械、作業方法など
によって生産力だけが変化した場合を考えます。
2.労働の生産力とは何か
労働の生産力とは、一定時間内にどれだけ多くの商品を生産できるかを示すものです。
例えば、ある労働者が1時間で10個の商品を作っていたとします。新しい機械の導入によって
、同じ1時間で20個作れるようになれば、生産力は2倍になったことになります。
生産力上昇前:1時間 → 商品10個
生産力上昇後:1時間 → 商品20個
ただし、生産物の数が2倍になっても、労働者が1時間に生み出す新しい価値が2倍になるわけ
ではありません。
3.生産力が上昇しても、1日の価値生産物は変わらない
労働日と労働の強度が変わらなければ、労働者が1日に新しく生み出す価値の総額も変わり
ません。例えば、労働日を8時間、1時間に生み出す新価値を1,000円とします。
1時間の新価値 1,000円 × 8時間
=1日の価値生産物 8,000円
生産力が上昇して商品を多く作れるようになっても、労働時間が8時間のままなら、新しく生み
出される価値総額は8,000円のままです。
したがって、生産力が2倍になると、商品1個当たりに含まれる新価値は半分になります。
生産力の上昇
↓
同じ時間で生産される商品の量が増える
↓
商品1個当たりの価値が低下する
これが、この節を理解するための第一の原則です。
4.労働力の価値とは何か
労働力の価値は、労働者とその家族が生活し、労働力を再生産するために必要な生活手段の価
値によって決まります。
生活手段には、例えば次のようなものが含まれます。
食料
衣服
住居
光熱費
教育費
労働力を維持するためのその他の費用
労働力の価値は、簡単に表すと次のようになります。
労働力の価値
=労働者とその家族に必要な生活手段の価値
食料や衣服などを生産する部門で生産力が上昇すれば、それらの商品が安くなります。
その結果、労働者の生活に必要な商品の価値総額も小さくなり、労働力の価値が低下します。
5.生産力の上昇による基本的な変化
生産力が上昇した場合の流れは、次のようになります。
労働の生産力が上昇する
↓
生活必需品の価値が低下する
↓
労働力の価値が低下する
↓
必要労働時間が短くなる
↓
剰余労働時間が長くなる
↓
剰余価値が増加する
これが「相対的剰余価値」が増加する基本的な仕組みです。
労働日そのものを延長するのではなく、必要労働時間を短縮することで、剰余労働時間を相対的
に長くするのです。
6.必要労働時間と剰余労働時間
労働日は、次の二つに分けられます。
労働日=必要労働時間+剰余労働時間
必要労働時間
労働者が自分の労働力の価値、すなわち賃金に相当する価値を生み出す時間です。
剰余労働時間
必要労働時間を超えて、資本家のために無償で働く時間です。この時間に剰余価値が生み出されます。
7.数字を使った具体例
労働日を8時間、1日に生み出される新価値を8,000円とします。
生産力上昇前
労働力の価値が4,000円であれば、それを生産するために4時間必要です。
労働日8時間
=必要労働4時間+剰余労働4時間
剰余価値率は次のようになります。
剰余価値率
=剰余価値÷労働力の価値×100
=4,000円÷4,000円×100
=100%
生産力上昇後
生活必需品が安くなり、労働力の価値が3,000円に低下したとします。
労働日は8時間、価値生産物は8,000円のままです。
労働日8時間
=必要労働3時間+剰余労働5時間
剰余価値率は次のようになります。
剰余価値率
=5,000円÷3,000円×100
=約166.7%
変化の比較
労働日は長くなっていません。それでも必要労働時間が1時間短縮されたため、剰余労働時間が
1時間増えています。
8.マルクスが示した三つの法則
第1の法則
労働日と労働の強度が不変ならば、1日に生産される価値総額も不変です。
労働日の長さが不変
+労働の強度が不変
↓
1日の価値生産物は不変
ただし、生産力の変化によって生産される商品の量は変化します。
第2の法則
労働力の価値と剰余価値は、反対方向に変化します。
労働力の価値が低下
↓
剰余価値が増加
反対に、生産力が低下して生活必需品が高くなれば、労働力の価値は上昇し、剰余価値は減少
します。
労働力の価値+剰余価値
=1日の価値生産物
1日の価値生産物が一定である以上、一方が減れば、もう一方が増えるのです。
第3の法則
剰余価値が変化するためには、まず労働力の価値が変化しなければなりません。
生産力の変化
↓
労働力の価値の変化
↓
剰余価値の変化
生産力が上昇しただけで、自動的に剰余価値が増えるわけではありません。
その生産力上昇が、労働者の生活必需品、またはその生産に必要な生産手段を安くし、労働力の
価値を引き下げる必要があります。
9.どの部門の生産力上昇でもよいわけではない
生産力が上昇しても、その商品が労働者の生活に関係しなければ、労働力の価値は直接には低下
しません。
労働力の価値を低下させやすい部門
食料品
衣料品
住宅関連
交通
光熱
生活必需品の生産に使われる機械や原材料
直接には低下させない部門
高級宝石
豪華ヨット
富裕層向けのぜいたく品
労働者が通常消費しない商品
例えば、高級宝石を生産する技術が向上して宝石が安くなっても、労働者の基本的な生活費が
下がらなければ、労働力の価値は基本的に変わりません。
したがって、社会全体の生産力上昇と、剰余価値の増加を単純に同一視することはできません。
10.生産力が低下した場合
凶作などによって食料生産の生産力が低下すると、食料品の価値が上昇します。
生産力が低下する
↓
生活必需品の価値が上昇する
↓
労働力の価値が上昇する
↓
必要労働時間が長くなる
↓
剰余労働時間が短くなる
↓
剰余価値が減少する
8時間労働を例にすると、次のようになります。
生産力低下前
必要労働4時間|剰余労働4時間
生産力低下後
必要労働5時間|剰余労働3時間
労働日が同じ8時間であっても、労働力の価値が上昇したため、資本家が取得する剰余価値は
減少します。
11.労働力の価値と賃金は同じではない
ここで注意したいのは、「労働力の価値」と「実際に支払われる賃金」は必ずしも一致しないと
いうことです。
労働力の価値が低下した場合、賃金が労働力の価値と同じ割合で直ちに下がるとは限りません。
例えば、生活必需品の価値が4,000円から3,000円に下がったとしても、賃金が4,000円から3,500円
までしか下がらない場合があります。
この場合、労働者の実質的な生活状態が多少改善すると同時に、資本家の剰余価値も増える可能
性があります。
生産力の上昇によって新たに生まれた余地が、労働者と資本家の間でどのように分けられるかは、
両者の力関係や労働運動などによって左右されます。
12.古典派経済学に対するマルクスの批判
古典派経済学者のリカードは、労働の生産力、賃金、利潤の関係を研究しました。
しかしマルクスは、リカードには次のような問題があったと指摘します。
労働力の価値と賃金を十分に区別していない
剰余価値と利潤を同じものとして扱う傾向がある
剰余価値の変化を、労働力の価値との関係から十分に説明できていない
マルクスは、商品の価値を「賃金と利潤の足し算」で説明するのではなく、労働者が生み出し
た新価値が、労働力の価値と剰余価値に分割されると考えました。
労働者が生み出した新価値
↓
┌──────────┬──────────┐
│ 労働力の価値 │ 剰余価値 │
│ 賃金の基礎 │ 資本家が取得 │
└──────────┴──────────┘
13.この節と相対的剰余価値の関係
この節は、第14章までに学んだ「相対的剰余価値」の仕組みを、より厳密に示したものです。
絶対的剰余価値
労働日そのものを延長する
8時間 → 10時間
相対的剰余価値
労働日は8時間のまま
必要労働時間を短縮する
4時間 → 3時間
相対的剰余価値の生産では、労働者が以前より長く働かなくても、資本家が取得する剰余価値を
増やすことができます。
14.全体の関係をコピーできる図表で整理
【前提条件】
労働日 =不変
労働の強度 =不変
労働の生産力=上昇
↓
【商品の変化】
同じ時間で、より多くの商品を生産できる
↓
商品1個当たりの価値が低下する
↓
【生活必需品の変化】
労働者の生活必需品が安くなる
↓
労働力の価値が低下する
↓
【労働日の分割の変化】
必要労働時間が短縮される
剰余労働時間が延長される
↓
【最終的な結果】
労働力の価値 =減少
剰余価値 =増加
剰余価値率 =上昇
1日の新価値 =不変
まとめ
第15章第1節で最も重要なのは、労働の生産力が「商品の量」だけでなく、労働日の内部におけ
る必要労働と剰余労働の配分を変えるという点です。
生産力が上昇すると、同じ時間で多くの商品を作れるようになります。しかし、労働日と労働の
強度が同じなら、1日に生み出される新価値の総額は変わりません。
変わるのは、その新価値の分け方です。
生産力上昇前
労働力の価値 4,000円+剰余価値4,000円
=新価値8,000円
生産力上昇後
労働力の価値 3,000円+剰余価値5,000円
=新価値8,000円
つまり、生産力の上昇によって労働力の価値が低下すれば、必要労働時間が短くなり、同じ労
働日の中で剰余労働時間が長くなります。
これが相対的剰余価値の増加です。
生産力の発展は、それ自体で労働日を長くするのではなく、労働日の内部を資本に有利な
形に組み替える。
この点に、資本主義における生産力発展の特徴が表れています。

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