📘『資本論』再学習 第67回
第1巻 第1冊「資本の生産過程」
第6篇「労働賃金」第19章「出来高賃金」
第18章では、働いた時間に応じて支払われる「時間賃金」を学びました。
第19章でマルクスは、完成させた製品の個数や仕事量に応じて支払われる「出来高賃金」を
分析します。
1.出来高賃金とは何か
出来高賃金とは、労働時間ではなく、完成させた仕事の量を基準にして賃金を支払う制度です。
例えば、
部品1個につき100円
商品1件の配達につき300円
原稿1本につき5,000円
製品100個の完成で1万円
という支払い方です。
一見すると、労働者は「自分がつくった製品そのものの代金」を受け取っているように見えます。
しかしマルクスは、出来高賃金も時間賃金と同じく、労働力の価値・価格が別の形で現れたもの
だと説明します。
2.出来高賃金は時間賃金の変形である
出来高賃金は、時間賃金とまったく別の制度ではありません。
まず資本家は、標準的な労働者が一定時間に何個の製品をつくれるかを決めます。そして、1日
の賃金を標準的な生産量で割り、製品1個当たりの単価を設定します。
例
1日の標準労働時間を8時間、1日の賃金を8,000円、標準生産量を80個とします。
8,000円 ÷ 80個=1個100円
この場合、1個当たりの出来高単価は100円です。
60個なら6,000円
80個なら8,000円
100個なら1万円
となります。
つまり、表面では「製品の個数」に対して支払われていますが、その基礎には労働時間と労働力
の価格があります。
出来高賃金は、時間賃金が仕事量を基準にした形へ変化したものである。
3.労働の質を検査する仕組みになる
出来高賃金では、不良品や基準に達しない製品は出来高として認められない場合があります。
そのため、出来高賃金は賃金制度であると同時に、労働の質を管理する仕組みにもなります。
不良品を賃金の対象から外す
製品ごとに検査を行う
作業速度と品質を同時に要求する
基準を満たさない仕事をやり直させる
資本家にとっては、監督者を増やさなくても、賃金を通して労働者に品質を守らせることが
できます。
4.労働強度を高めやすい
出来高賃金では、労働者は「多くつくれば賃金が増える」と考えます。そのため、自分から作業
速度を上げ、休憩時間を短くし、より強く働くようになります。
しかし、これは単純に労働者に有利な制度とはいえません。
労働者が生産量を増やすと、資本家はその実績を新しい標準量にすることがあるからです。
例えば、1日80個が標準だったものを、労働者の努力によって100個生産できるようになると、
今度は100個が「普通の仕事量」とされる可能性があります。さらに、1個当たりの単価が引き
下げられることもあります。
こうして出来高賃金は、
労働者自身の努力によって労働の強度を高めさせる仕組み
として機能します。
5.労働者同士の競争を生み出す
時間賃金では、同じ時間働けば、基本的には同程度の賃金が支払われます。
一方、出来高賃金では、生産量によって個人の賃金に差が生まれます。
作業が速い人は賃金が多い
作業が遅い人は賃金が少ない
体力のある人が有利になる
熟練度や年齢によって格差が生まれる
労働者は互いに協力する仲間であると同時に、より多く稼ぐための競争相手にもなります。
その結果、資本家が直接「もっと速く働け」と命令しなくても、労働者同士の競争によって生産
量が引き上げられます。
6.「自分の働き次第」という考えを強める
出来高賃金では、賃金額が個人の生産量によって変わります。
そのため、労働者は次のように考えやすくなります。
「収入が少ないのは、自分の努力が足りないからだ」
「もっと働けば、もっと豊かになれる」
「賃金は自分の能力だけで決まる」
しかし実際には、賃金を左右するのは個人の努力だけではありません。
出来高単価
資材や機械の状態
注文量
不良品の判定基準
作業できる時間
資本家が設定する標準生産量
こうした条件は、主に資本家側によって決められます。
出来高賃金は、資本家と労働者の関係を隠し、賃金の低さを労働者自身の責任に見せやすい制
度なのです。
7.中間搾取や下請け制度と結びつきやすい
マルクスは、出来高賃金が請負人や中間業者による搾取とも結びつきやすいことを指摘します。
資本家が仕事全体を請負人に任せ、請負人が労働者を集めて働かせる場合があります。請負人は
資本家から受け取った金額と、労働者に支払う賃金との差額を自分の利益にします。
この仕組みでは、請負人も労働者をより安く、より激しく働かせようとします。
出来高賃金は、工場だけでなく、家内労働や下請け労働を拡大させる条件にもなりました。
【出来高賃金と中間搾取の仕組み】
資本家
↓ 仕事をまとめて発注する
請負人・中間業者
↓ 出来高単価を決めて仕事を渡す
労働者
↓ 製品や成果物を納入する
請負人・中間業者
↓ 完成品を納入する
資本家
資本家が支払った金額
↓
請負人・中間業者が手数料や利益を差し引く
↓
残った金額が労働者の出来高賃金になる
【問題点】
✅ 請負人が労働者の出来高単価を低く設定する場合がある
✅ 資本家だけでなく、中間業者も利益を得る
✅ 労働者の受け取る賃金がさらに少なくなる
✅ 家内労働や下請け労働では、労働条件が見えにくくなる
✅ 労働者に経費や仕事上の危険が押しつけられる場合がある
出来高賃金は、請負・下請け制度と結びつくことによって、中間業者による搾取を生み出し
やすくなります。
8.労働時間が長くなることもある
出来高賃金では、より多く稼ぐために労働者自身が長時間働く場合があります。
しかし、多くの労働者が長時間働いて生産量を増やすと、市場全体の標準的な生産量も上がり
ます。すると出来高単価が引き下げられ、以前と同じ賃金を得るために、さらに多く働かなけ
ればならなくなることがあります。
個人にとって合理的に見える努力が、労働者全体では賃金単価の引き下げにつながる可能性があ
るのです。【出来高賃金によって労働時間が長くなる流れ】
より多くの賃金を得たい
↓
労働者が生産量を増やす
↓
作業速度と労働強度が上がる
↓
休憩時間を減らし、長時間働く
↓
生産量の多さが新しい標準になる
↓
出来高単価が引き下げられる
↓
以前と同じ賃金を得るために、さらに多く働く
↓
労働時間と労働強度がさらに増える
【悪循環】
出来高単価の低下
↓
生産量を増やす
↓
長時間・高強度の労働
↓
標準生産量の引き上げ
↓
出来高単価のさらなる低下
【重要なポイント】
✅ 労働者は自分の意思で長く働いているように見える
✅ 実際には、低い出来高単価が長時間労働を強いる
✅ 個人の努力によって全体の標準生産量が引き上げられる
✅ 生産量が増えても、出来高単価が下がれば収入は増えない
✅ 労働者間の競争が労働時間と労働強度を高める
出来高賃金では、「もっと稼ぎたい」という労働者の思いが利用され、労働者自身が労働時間
を延ばし、仕事の速度を上げる仕組みが生まれますにおける長時間労働へのプロセス】
もっと収入を増やしたいという欲求
↓
労働者個人が自発的にアウトプットを拡大
↓
作業スピードと労働密度の向上
↓
休息を削り、稼働時間を延長
↓
増大した生産実績が「当たり前の基準」へ上書き
↓
1個当たりの報酬単価が圧縮
↓
従前の手取りを維持するため、さらなる増産に追われる
↓
労働時間の長期化と負荷が際限なく増大
【構造的な悪循環】
出来高単価の下落傾向
↓
無理な増産によるカバー
↓
極限までの長時間・高密度労働
↓
ノルマ(標準生産量)の更なる底上げ
↓
単価の再度の切り下げ
【ここがポイント】
✅ 表面上は「自らの選択」で過重労働に陥っているように見える
✅ 実際は低廉な単価設定が長時間労働を強制する外部圧力となる
✅ 個々の自助努力が、結果として全体の労働条件を悪化させる
✅ 生産性を上げても単価が削られれば、実質賃金は改善しない
✅ 労働者同士の過当競争が、労働の質と量の限界を押し上げる
出来高賃金という形態は、労働者の向上心や生活防衛の心理を巧みに取り込み、労働者自ら
にペースアップと拘束時間の延長を強いる巧妙な制御システムとして機能するのです。
9.出来高賃金でも剰余価値はなくならない
出来高賃金では、労働者が生産した分だけ賃金を受け取っているように見えます。
しかし、資本家が製品1個について得る価値のすべてが、労働者に支払われるわけではありません。
仮に労働者が1日に100個をつくり、1個100円で1万円を受け取ったとしても、その労働によって
生み出された新しい価値が2万円であれば、差額は資本家のものになります。
したがって、出来高賃金になっても、
必要労働
剰余労働
支払労働
不払労働
という関係は変わりません。
変わるのは賃金の「見え方」です。
10.現代社会にも見られる出来高賃金
現在でも、出来高賃金に似た働き方は数多くあります。
宅配・フードデリバリーの1件単位の報酬
商品販売の歩合給
保険や不動産の契約件数による報酬
内職の製品単価
ライターの文字・記事単価
動画や画像制作の案件単価
インターネット上の業務委託
成果報酬型の営業職
もちろん、出来高制そのものがすべて悪いわけではありません。技能や努力が正当に評価され、
適切な単価が保障されるなら、労働者にとって有利になる場合もあります。
問題は、単価決定の主導権が誰にあるのか、待機時間や準備時間が報酬に含まれるのか、経費
や事故の負担を誰が引き受けるのかという点です。
今回の重要ポイント
✅ 出来高賃金は、時間賃金が変形した賃金形態である
✅ 製品そのものの価値ではなく、労働力の価格が出来高単価として現れる
✅ 労働の量だけでなく、品質を管理する仕組みにもなる
✅ 労働者自身に労働強度を高めさせやすい
✅ 生産量によって労働者間の賃金格差と競争が生まれる
✅ 収入の少なさを「本人の努力不足」に見せやすい
✅ 請負・下請け・家内労働と結びつき、中間搾取を生む場合がある
✅ 出来高賃金でも、剰余労働と不払労働はなくならない
まとめ
マルクスが第19章で明らかにしたのは、出来高賃金が単に「働いた分だけ公平に受け取れる制度」
ではないということです。
出来高賃金は、労働者に一定の自由や成果に応じた報酬を与えるように見えます。しかし同時に
、労働者自身に仕事の速度を上げさせ、長時間働かせ、労働者同士を競争させる仕組みにもなります。
出来高賃金では、資本による監督の一部が、労働者自身の自己管理と相互競争に置き換えら
れる。
現代の歩合給、業務委託、配達報酬、クラウドワークなどを考えるうえでも、第19章の分析は重
要な意味を持っています。

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