📘『資本論』再学習 第75回
第1巻 第1冊「資本の生産過程」
第7篇「資本の蓄積過程」
第23章「資本主義的蓄積の一般的法則」
※章の表題は、一般的には次のように表記されます。
第23章「資本主義的蓄積の一般的法則」
「資本主義的生産の一般法則」ではなく、資本の蓄積が労働者の雇用・賃金・生活にどのような
影響を及ぼすのかを明らかにする章です。
✅今回の重要ポイント
資本家は剰余価値の一部を資本に変え、生産規模を拡大する
資本の蓄積が進んでも、すべての労働者が豊かになるとは限らない
機械や設備への投資が増えると、労働力への需要が相対的に低下する
資本主義は、必要なときに雇用できる「産業予備軍」を生み出す
失業者や不安定労働者の存在が、現役労働者の賃金を抑える力になる
一方に富が蓄積され、他方に貧困や不安定さが蓄積される
これは資本家個人の性格ではなく、資本主義の仕組みから生じる
① 資本の蓄積とは何か
資本家は、生産活動によって得た剰余価値をすべて個人的に消費するわけではありません。その
一部を、新しい機械・工場・原材料・労働力の購入に回します。
このように、剰余価値を追加資本へ変えることを、マルクスは資本の蓄積と呼びました。
資本の流れを簡単に示すと、次のようになります。
生産 → 剰余価値の獲得 → 追加投資 → 生産規模の拡大 → さらに多くの剰余価値
資本家は競争の中に置かれているため、蓄積を止めることが困難です。新しい機械を導入し、生
産性を高めなければ、ほかの企業との競争に負けてしまうからです。
そのため、資本の蓄積は資本家個人の好みではなく、競争によって強制される運動でもあります。
② 資本が増えれば労働者も豊かになるのか
資本の蓄積が進み、生産規模が拡大すると、最初の段階では多くの労働者が必要になります。
労働力への需要が増えれば、賃金が上昇する場合もあります。労働者の生活状態が一時的に改善
することもあります。
しかし、マルクスは次のように考えました。
賃金が上昇しても、賃金労働そのものがなくなるわけではない。
労働者は、生産手段を所有していません。生活するためには、自分の労働力を資本家に売り続け
なければなりません。
賃金が多少上昇しても、
生産手段は資本家が所有する
労働者は労働力を売る
労働者が生み出した価値の一部を資本家が取得する
剰余価値が追加資本になる
という基本的な関係は変わりません。
つまり、資本の蓄積は同時に、資本と賃金労働の関係を拡大再生産する過程なのです。
③ 資本の「有機的構成」が高度化する
第23章を理解するうえで重要なのが、資本の有機的構成という考え方です。
資本家が投資する資本は、大きく二つに分けられます。
資本主義が発展すると、機械化・自動化・技術革新が進みます。その結果、労働力に使われる資
本に比べて、機械や設備に使われる資本の割合が大きくなります。
これが、資本の有機的構成の高度化です。
例えば、以前は100人で行っていた仕事が、新しい機械の導入によって20人でできるようになる
ことがあります。
生産量は増えても、必要な労働者数は以前ほど増えません。場合によっては、労働者が削減さ
れます。
④ 資本の蓄積が労働者を「余らせる」
一見すると、人口が増えたために失業者が生まれるように見えます。
しかしマルクスは、資本主義のもとでの過剰人口は、単純な人口増加によって生まれるのではな
いと考えました。
機械化や生産性の向上によって、資本が必要とする労働者の割合が低下します。その結果、働く
能力があっても資本に雇われない人々が生み出されます。
これが相対的過剰人口です。
「相対的」と呼ばれるのは、社会全体にとって人間が余っているのではなく、資本の利潤獲得に必要な人数を超えているという意味だからです。
社会には必要な仕事がたくさん残っていても、利益につながらなければ雇用は生まれません。
したがって、「人が余っている」のではなく、資本の側から見て「雇う必要がない」と判断され
ているのです。
⑤ 産業予備軍とは何か
相対的過剰人口は、資本にとっての産業予備軍になります。
産業予備軍とは、景気が良くなったときには雇用され、景気が悪くなったときには解雇される労
働者層です。
資本主義経済には、好況と不況の波があります。
資本は、必要なときだけ労働者を雇い、必要がなくなれば雇用を減らします。
産業予備軍は、資本の膨張と縮小に対応するための「利用可能な労働力」として機能します。
⑥ 産業予備軍が賃金を抑える
失業者や不安定雇用の労働者が多いと、現役の労働者は次のような不安を抱えます。
仕事を失うかもしれない
自分の代わりになる人がいる
賃上げを要求すると解雇されるかもしれない
厳しい労働条件でも我慢せざるを得ない
そのため、産業予備軍の存在は、雇用されている労働者にも影響を与えます。
労働者同士が仕事をめぐって競争させられ、賃金や労働条件を改善する力が弱められるからです。
マルクスは、賃金の動きが単純な人口の増減によって決まるのではなく、現役労働者と産業予備軍の割合に大きく左右されると考えました。
⑦ 相対的過剰人口の三つの形態
マルクスは、相対的過剰人口を主に三つの形態に分けています。
1.流動的形態
企業の拡大や縮小、機械化、景気変動などによって、雇用と失業を繰り返す人々です。
現代では、契約終了や企業の業績悪化によって職を失う人、非正規雇用を転々とする人などが近
い存在といえます。
2.潜在的形態
農村などに存在し、必要に応じて都市の工業労働者へ転換される可能性のある人々です。
農業の機械化や土地の集約によって農村で働けなくなった人が、都市へ移動して賃金労働者に
なります。
3.停滞的形態
仕事には就いているものの、賃金が低く、労働時間が長く、雇用が非常に不安定な人々です。
現代の状況にそのまま当てはめることはできませんが、日雇い労働、短時間雇用、不安定な非正
規雇用などを考える手掛かりになります。
さらに、その下には、働く機会をほとんど失い、極度の貧困状態に置かれた人々が存在します。
⑧ 資本の集中と集積
資本の蓄積が進むと、個々の資本が大きくなるだけではありません。資本は、次第に少数の大資
本へ集まっていきます。
マルクスは、これを「集積」と「集中」に分けて説明しました。
大企業は、新しい機械や大規模設備を導入しやすくなります。それによって生産性が上がり、小
規模な企業は競争に敗れる可能性が高まります。
競争によって資本が集中し、資本の集中がさらに機械化を進めるという循環が生まれます。
⑨ 富の蓄積と貧困の蓄積
第23章で最も有名なのが、資本の蓄積と貧困の関係です。
資本主義では、生産力が発展し、社会全体で生み出される富が増えていきます。しかし、その富
がすべての人に平等に行き渡るわけではありません。
一方では、
資本
生産手段
利潤
社会的な支配力
が蓄積されます。
他方では、
失業
低賃金
不安定雇用
長時間労働
生活不安
が生み出されます。
マルクスは、この関係を資本主義的蓄積の絶対的・一般的法則として示しました。
ただし、これは「すべての労働者が毎年必ず貧しくなる」という単純な意味ではありません。
労働者の生活水準が上昇する時期があっても、資本に対する従属、雇用の不安定さ、富や権力の
格差が拡大する可能性があるということです。
⑩ 現代社会とのつながり
第23章の考え方は、現代の経済を考えるうえでも重要です。
例えば、AI・ロボット・自動化が普及すれば、生産性が高まり、少ない人数で多くの商品やサー
ビスを生み出せるようになります。
これは本来、人間の労働時間を短くし、生活を豊かにする可能性を持っています。
しかし、技術が資本の利潤拡大を優先して利用されれば、
人員削減
雇用の二極化
非正規雇用の増加
技能による賃金格差
失業への不安
労働強度の上昇
につながる場合があります。
技術そのものが失業を生み出すのではありません。技術が、誰によって、何を目的に使われるの
かが問題なのです。
⑪ 個人の努力だけでは説明できない
失業や貧困は、しばしば本人の努力不足として説明されます。
しかし第23章の分析によれば、資本主義はその運動のなかで、一定数の失業者や不安定労働者
を繰り返し生み出します。
したがって、すべてを個人の責任にすることはできません。
もちろん、教育や技能習得は個人にとって重要です。しかし、全員が新しい技能を身につけても
、経済全体で十分な雇用が用意されなければ、失業問題は解決しません。
マルクスは、個人の能力ではなく、雇用と失業を生み出す社会の構造を明らかにしようとしたのです。
⑫ 第23章全体の構成
第23章は、次の五つの節から構成されています。
今回の第75回は、第23章全体を理解するための総論です。次回から各節を詳しく読むと、資本
の蓄積と労働者人口の関係が、より具体的に見えてきます。
✅まとめ
資本主義的蓄積の一般的法則とは、次のような関係です。
資本の蓄積が進む
→ 機械・設備への投資が増える
→ 労働力への需要が相対的に減る
→ 相対的過剰人口が生まれる
→ 産業予備軍が形成される
→ 賃金と労働条件が抑えられる
→ 富の蓄積と貧困・不安定さの蓄積が同時に進む
資本主義は巨大な生産力を発展させます。しかし、その発展が自動的にすべての人の幸福につな
がるわけではありません。
社会の富を生み出している労働者が、同時に失業や生活不安にさらされる――この矛盾を明ら
かにしたことが、第23章の最大の意義です。

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