📘『資本論』再学習 第73回
第1巻 第1冊「資本の生産過程」
第7篇「資本の蓄積過程」
第22章「剰余価値の資本への転化」
第4節「資本と収入とへの剰余価値の分割比率から独立して、蓄積の大きさを規定
する諸事情」
―労働力の搾取度・労働の生産力・充用される資本と消費される資本との差額の増大・前貸資本
の大きさ―
※表題は、一般的には次のように整理すると分かりやすくなります。
「資本と収入とへの剰余価値の分割比率から独立して、蓄積の大きさを規定する諸事情」
翻訳によっては「充用される資本」を「使用される資本」、「前貸資本」を「投下資本」と表記す
ることがあります。
✅今回の重要ポイント
資本蓄積の大きさは、剰余価値をどの割合で資本に回すかだけでは決まらない
労働力の搾取度が高まると、剰余価値が増えて蓄積も拡大する
労働の生産力が上昇すると、同じ価値額でより多くの生産手段や生活手段を購入できる
機械や建物は、価値を少しずつ商品へ移しながら、その全体が生産に役立つ
充用される資本と消費される資本との差が大きくなると、資本は「無償の自然力」のよう
に利用できる
前貸資本が大きいほど、同じ剰余価値率でも剰余価値の総額は大きくなる
蓄積の拡大は、資本家の節約だけでなく、労働者への支配と生産力の発展によって進めら
れる
1.この節では何を問題にしているのか
前節では、剰余価値が次の二つに分けられることを学びました。
例えば、剰余価値が100万円あり、そのうち60万円を追加資本、40万円を資本家の個人的消費
に回すとします。
この場合、蓄積率は60%です。
しかし、マルクスは第4節で、蓄積の大きさは、この分割比率だけでは決まらないと指摘します。
同じ60%を蓄積に回しても、もとの剰余価値が100万円の場合と1,000万円の場合では、蓄積額
が大きく違います。
剰余価値100万円 × 蓄積率60% = 蓄積額60万円
剰余価値1,000万円 × 蓄積率60% = 蓄積額600万円
つまり、蓄積を大きくするには、剰余価値そのものを増大させる条件も重要なのです。
マルクスは、その条件として次の四つを挙げています。
労働力の搾取度
労働の生産力
充用される資本と消費される資本との差額
前貸資本の大きさ
2.資本蓄積の大きさを決める基本関係
全体の関係を簡単に表すと、次のようになります。
労働力の搾取度の上昇
↓
剰余価値の増大
↓
追加資本の増大
↓
資本蓄積の拡大
これに労働の生産力、機械や設備の利用、前貸資本の大きさが加わります。
【蓄積を大きくする四つの条件】
① 労働力の搾取度
+
② 労働の生産力
+
③ 充用資本と消費資本との差額
+
④ 前貸資本の大きさ
↓
剰余価値と蓄積の増大
3.労働力の搾取度
①搾取度とは何か
労働力の搾取度とは、労働者が必要労働を超えて、どの程度の剰余労働を行っているかを示す
ものです。
剰余価値率は、次の式で表されます。
剰余価値率=剰余価値可変資本=剰余労働必要労働剰余価値率=\frac{剰余価値}{可変資本} =\frac{
剰余労働}{必要労働}
例えば、1日の労働時間が8時間で、必要労働が4時間、剰余労働が4時間なら、剰余価値率は
100%です。
4時間4時間×100=100%\frac{4時間}{4時間}\times100=100\%
②労働時間を延長する
労働者の賃金を変えずに労働時間を長くすると、剰余労働時間が増えます。
これは絶対的剰余価値の増大です。
資本家は労働者に、より長い時間働かせることによって、追加の資本を投下しなくても剰余価
値を増やせます。
③労働を強化する
労働時間が同じでも、労働の密度を高めれば生産量を増やせます。
例えば、同じ8時間でも次のような方法が考えられます。
機械の速度を上げる
作業人数を減らす
休憩時間を短くする
ノルマを引き上げる
作業を細かく管理する
労働者一人が担当する機械を増やす
これは、同じ時間内により多くの労働を詰め込むことです。
形式上は「8時間労働」のままでも、労働者の肉体的・精神的負担は大きくなります。
④賃金を労働力の価値以下に押し下げる
労働力の価値は、労働者とその家族が生活し、労働力を再生産するために必要な生活手段の
価値によって規定されます。
ところが、現実の賃金が労働力の価値を下回る場合があります。
例えば、生活に20万円必要なのに、賃金が16万円しか支払われなければ、不足分は労働者側の
犠牲になります。
労働者は次のような方法で不足を補うことになります。
食費を削る
医療を控える
休養を減らす
家族も働く
借金をする
住居費を切り詰める
本来、労働者の生活維持に必要だった部分が資本家の剰余価値へ転化します。
マルクスはこれを、労働者の必要消費基金を資本の蓄積基金へ変えることとして批判しています。
労働者の生活に必要な部分
↓ 賃金を切り下げる
資本家の剰余価値となる
↓
追加資本・資本蓄積に回される
4.労働の生産力
①生産力が上昇するとどうなるのか
労働の生産力が上昇すると、同じ労働時間で、より多くの商品を生産できるようになります。
例えば、1人の労働者が1日に10個の商品を作っていたとします。
新しい機械の導入によって20個作れるようになれば、生産力は2倍です。
商品の1個当たりの価値は低下しますが、同じ価値額で購入できる商品の量は増えます。
②労働者の生活手段が安くなる
生産力の上昇によって、食料、衣服、住宅用品などが安くなれば、労働力の価値も低下します。
例えば、労働者が生活するために必要な商品を作る時間が4時間から3時間に短縮されたとします。
総労働時間が8時間のままなら、次のようになります。
労働時間を延長しなくても、必要労働時間が短くなった分だけ、剰余労働時間が増えます。
これが相対的剰余価値の生産です。
③同じ蓄積額でも、より多くの物を購入できる
生産力の上昇は、追加資本の実際の働きも大きくします。
例えば、蓄積に回される価値額が100万円で変わらなくても、機械や原材料の価格が下がれ
ば、より多くの生産手段を購入できます。
生産力上昇前
100万円 → 機械1台+原材料100個
生産力上昇後
100万円 → 機械2台+原材料200個
貨幣で表された蓄積額が同じでも、実際に動かせる生産手段の量は増えます。
したがって、蓄積の「価値量」が変わらなくても、蓄積された資本の「物量」は増大するのです。
④旧資本も新しい力を得る
生産力の発展は、新しく蓄積される資本だけに影響するのではありません。
すでに存在している機械、工場、交通設備、通信設備なども、技術や生産方法の進歩によって
、以前より効率的に利用されるようになります。
例えば、同じ工場でも次のような変化が起こります。
生産工程の改善
原材料の節約
機械の稼働率向上
エネルギー使用量の削減
運搬時間の短縮
廃棄物の再利用
このように、過去の労働によって作られた生産手段が、新しい科学や技術の力を取り込み、より
大きな生産力を発揮します。
マルクスは、科学や技術の進歩が資本の力として現れることを重視しました。
5.「充用される資本」と「消費される資本」
の差額
ここは第4節の中でも、特に分かりにくい部分です。
①「充用」と「消費」の違い
機械を例に考えてみましょう。
1,000万円の機械を購入し、10年間使用するとします。
その機械は、生産過程では毎年その全体が働きます。しかし、商品の価値に移るのは、毎年100
万円ずつです。
この場合、1,000万円の機械全体が生産に「充用」されています。
一方、1年間に「消費」され、商品へ移される価値は100万円です。
充用される資本 1,000万円
消費される資本 100万円
差額 900万円
②機械は価値を失いながら使用価値を保つ
機械は、長い期間にわたって少しずつ価値を商品に移します。
しかし、完全に使えなくなるまでは、機械全体が生産に参加します。
つまり機械は、価値の一部を失った後も、生産手段として働き続けます。
例えば、5年間使用した機械は、帳簿上では半分の価値しか残っていないかもしれません。それ
でも正常に動けば、機械全体として生産に役立ちます。
この意味で、過去の労働によって生産された機械は、現在の労働を助ける「無償の力」のように
作用します。
ただし、機械そのものが価値を新しく生み出すわけではありません。
新しい価値を生み出すのは、あくまでも労働者の生きた労働です。
③固定資本が増大すると差額も大きくなる
資本主義が発展すると、大規模な機械や設備が増えます。
工場
機械
鉄道
倉庫
発電設備
通信設備
コンピューターシステム
これらは長期間使用されます。
生産で利用される設備全体の規模は大きくても、1年間に商品へ移る価値は、その一部分だけです。
したがって、固定資本が増大するほど、「充用される資本」と「消費される資本」の差額も大きく
なる傾向があります。
巨大な機械・設備の全体
↓
生産には全体が役立つ
↓
商品に移る価値は一部分
↓
差額が無償の生産力のように働く
④自然力も資本の力として利用される
機械を使用することで、資本は自然力を生産に利用できます。
例えば、次のようなものです。
水力
風力
蒸気力
電力
化学反応
太陽光
重力
自然力そのものには、資本家が価値を支払っていない場合があります。
しかし、機械や設備を所有することで、資本家は自然力を利用し、生産量を増やせます。
その結果、自然の力や科学の成果までもが、資本の生産力であるかのように見えるのです。
6.前貸資本の大きさ
①前貸資本とは何か
前貸資本とは、資本家が生産を始める前に準備し、投下する資本です。
主に次の二つに分かれます。
資本家は、商品を販売して代金を回収する前に、あらかじめ資本を投下します。そのため「前
貸しされた資本」と呼ばれます。
②同じ剰余価値率でも、資本が大きければ剰余価値量は増える
剰余価値の総額は、主に次の二つによって決まります。
労働力の搾取度
雇用する労働者の数
式で表すと、次のようになります。
剰余価値量=可変資本×剰余価値率剰余価値量=可変資本×剰余価値率
剰余価値率が100%の場合を考えてみましょう。
搾取率が同じでも、より多くの労働者を雇う大資本ほど、剰余価値の総額が大きくなります。
その結果、同じ割合を蓄積に回しても、大資本の蓄積額は大きくなります。
③大資本ほど蓄積が速い
例えば、二つの企業が剰余価値の50%を蓄積するとします。
同じ蓄積率でも、大企業は毎年5,000万円を追加資本にできます。
追加資本は、さらに多くの労働者や生産手段を動かし、新しい剰余価値を生みます。
大きな前貸資本
↓
多くの労働力を雇用
↓
多額の剰余価値を取得
↓
多額の追加資本を蓄積
↓
さらに前貸資本が大きくなる
これが資本の自己増殖運動です。
7.四つの条件の関係
これらは、それぞれ独立しているように見えますが、実際には相互に結びついています。
前貸資本の増大
↓
大型機械・新技術の導入
↓
労働生産力の上昇
↓
必要労働時間の短縮
↓
剰余価値の増大
↓
資本蓄積の拡大
↓
さらに前貸資本が増大
8.資本の蓄積は「資本家の節約」の結果な
のか
資本家側の説明では、資本の蓄積は次のように語られがちです。
資本家が消費を我慢して貯蓄したから、社会の富が増えた。
しかし、マルクスはこの見方を批判します。
蓄積を増やしている主な要因は、資本家の個人的な節約だけではありません。
労働時間の延長
労働強度の上昇
賃金の抑制
労働生産力の上昇
科学技術の利用
固定資本の効率的使用
雇用される労働者数の増加
つまり、資本蓄積の根本には労働者が生み出した剰余価値があります。
資本家が追加資本として再投資する価値も、もともとは労働者の不払労働から生まれたものです。
9.現代社会に置き換えると
第4節の内容は、現代の企業経営にも当てはまります。
労働力の搾取度
長時間労働
サービス残業
非正規雇用
人員削減
成果主義
過大なノルマ
最低賃金に近い賃金
労働の生産力
AIの導入
産業用ロボット
自動化
デジタル化
セルフレジ
物流システム
生産管理ソフト
充用資本と消費資本との差
長期間使用される工場設備
鉄道車両や線路
発電設備
通信ネットワーク
データセンター
半導体製造装置
前貸資本の大きさ
大企業による巨額設備投資
大規模工場の建設
競合企業の買収
世界規模の雇用
研究開発への巨額投資
AIやロボットが導入されても、それによって生まれた利益が労働者の労働時間短縮や賃金上昇
に使われるとは限りません。
企業の所有関係が変わらなければ、生産力の上昇は資本の利益と蓄積を増やす力として利用さ
れやすくなります。
10.この節でマルクスが伝えたかったこと
マルクスが明らかにしたかったのは、資本蓄積が単なる「貯金」ではないということです。
資本家が個人的消費を減らして資本を貯めるだけではありません。
蓄積の大きさは、労働者からどれだけ剰余労働を引き出すか、労働生産力をどこまで高めるか
、機械や科学をどのように利用するか、すでに所有する資本がどれほど大きいかによって規定
されます。
しかも、蓄積された資本は、再び労働者を雇用し、新しい剰余価値を生み出すために使われます。
労働者が剰余価値を生み出す
↓
資本家が剰余価値を取得する
↓
その一部を追加資本にする
↓
より多くの生産手段と労働力を支配する
↓
さらに多くの剰余価値を取得する
資本は蓄積されるほど、より大きな力で労働を支配するようになります。
まとめ
第22章第4節では、剰余価値を資本と収入に分ける比率が同じでも、蓄積額は一定ではないこ
とが説明されました。
蓄積の大きさを左右するのは、次の四つです。
労働力の搾取度
長時間労働、労働強化、賃金抑制などによって剰余価値が増大します。労働の生産力
同じ労働時間や価値額で、より多くの商品と生産手段を得られるようになります。充用資本と消費資本との差額
機械や設備は、その価値を少しずつ失いながら、全体として生産に役立ち続けます。前貸資本の大きさ
資本の規模が大きいほど多くの労働力を雇用でき、剰余価値と蓄積の総額も大きくなります。
したがって、資本蓄積は資本家の「節欲」だけによって生まれるものではありません。
その土台にあるのは労働者の剰余労働であり、科学・技術・自然力・過去の労働の成果も、資本
の増殖手段として利用されます。
これが、第4節の中心的な結論です。

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